希代のエンターテイナーにして、ヒップホップの未来を担うラッパー、サイプレス上野の月刊連載! 日本語ラップへの深~い愛情を持つサイプレス上野と、この分野のオーソリティーとして知られるライター・東京ブロンクスの二人が、日本語ラップについてディープかつユルめのトークを繰り広げます。今回はゲストにMC JOEを迎え、DJ DOC. HOLIDAYのアルバム『The Rhythm. The Rebel』とレーベル=RHYTHMについて語っております。

●今月の名盤:DJ DOC. HOLIDAY『The Rhythm. The Rebel』 NUTMEG(1992)

DJとして20年以上のキャリアを持ち、Sunaga t Experienceとしても活動する須永辰緒が、DJ DOC.HOLIDAY名義で92年にリリースしたアルバム。ECD、YOU THE ROCK★といったヒップホップ勢のみではなく、VOLUME DEALERS、COCOBATのメンバーが参加した、ミクスチャーな作品となっている。本作がリリースされたレーベル=RHYTHMからは、GAS BOYS、YOU THE ROCK★らもアルバムをリリースした。(bounce.com編集部)
ブロンクス「今回取り上げるRHYTHMレーベルは俺も上ちょ(サイプレス上野)も完全な後追いなので、助っ人にシーンの生き証人MC JOEさんに来ていただきました!! RHYTHMが始まったのって、いつ頃だったんですか?」
JOE「いちばん最初は、NUTMEG*1じゃなかったんだよね。確かウォーターマーケットとかっていうレーベルがあって、91年に1枚だけ辰緒さんの名義でシングルが出てるの。DJ DOC. HOLIDAY & Dub Master X feat MUROくんとMAZZさんだったかな」
*1 RHYTHMの母体レーベル。
ブロンクス「JOEさんがRHYTHMから“Premium Jungle”を出したきっかけはどんな感じだったんですか?」
JOE「いや、単純に毎週ミロス*2で遊んでたら辰緒さんが、〈JOE、出すか?〉みたいな。もう、そんぐらい。だから、辰緒さんの情けじゃねえか、って思ってるんだけど(笑)」
*2 新宿にあったクラブ、ミロスガレージ。
上野「伝説のミロスの火曜、ってやつですね」
JOE「その時って、当然ヒップホップがメインのところってなくて、たぶんミロスの火曜か、あとDJ KRUSHさんとかMUROくんがやってた、土曜のドゥルッピー・ドゥルワーズ。そこしかみんな行くとこがなかった」
ブロンクス「ヒップホップと、あとパンクもかかってたんですか?」
JOE「パンクはそんなにかからなかった。辰緒さんが酔っ払った時とか、機嫌がいい時だけ。町田町蔵のINUがかかった時には衝撃を覚えたけどね(笑)」
上野「ヤバい(笑)」
ブロンクス「このDJハンドブック(書籍〈ULTIMATE DJ HANDBOOK〉)を読んでたら、隙を見てディスチャージをかける、って書いてあって(笑)」
JOE「そうそう(笑)。それはもっと前の話らしいんで、ミロスの時にはもう全然新しいヒップホップをかけるし、あとはレアグルーヴとか」
ブロンクス「NUTMEGのCD、前はよく中古盤屋で遭遇しましたよ」
JOE「NUTMEGは代チョコ(代々木チョコレートシティ*3)も運営してたから、“Premier Jungle”は、代チョコのステージにマイク立てて録音した(笑)」
*3 代々木にあったライヴハウス。
上野「あれ手に入らなかったっすねえ、レコード」
JOE「俺も持ってないよ。この間、九州のレコード屋で9,800円で売ってて笑ったんだもん(笑)。買うのかよ!?と思ったら、2~3週間したらソールドアウトになってたからね」
ブロンクス「それをJOEさんが知ってくれてるなら、買った人も本望ですよ。そういえば当時ライムス(RHYMESTER)のシロウくん(宇多丸)とJOEさんがMCバトルになったっていう話もありますよね(笑)」
JOE「そうそう。それもでも、けっこう後だよ。もう辰緒さんが1回手を引いて、石田さん(ECD)が毎週毎週……っていうか、この時は毎月になっちゃってたけどイヴェントをやるのに、誰かよそから人を呼んでた。その時に、バトルになったっていうか。でも俺たちはフリースタイル自体を知らないのよ(笑)。だからもうホント、口ゲンカみたいな(笑)」
ブロンクス「〈これは米騒動じゃなくってオ●コ騒動だ!〉っていうパンチラインをJOEさんが言った、っていう噂が(笑)」
JOE「それを石田さんがおもしろがって、〈CHECK YOUR MIC〉のときに舞台でやれ!っていう話になって(笑)」
ブロンクス「いやでも、日本初の公開バトルですよ」
上野「JOEさんは昔から、韻が硬いですよね。俺は当時、JOEさんがいちばん勢いあるな、っていうふうに思ってたんすけどね。“Premier Jungle”とか聴いてて、何かフィジカルな感じが、すげえ……」
JOE「落ち着いて、黙ってラップするんじゃなくて、ステージを動き回るっていうね(笑)。スヌープみたいに突っ立って歌ってるなんて、想像できない(笑)」
ブロンクス「たしかに写真とか見ると、いつも手がカンフーみたいな……(笑)。でもそれ、RHYTHMレーベルの特徴かもしれないですよね」
JOE「そう。GAS BOYSもYOU(THE ROCK★)君もそうだったろうし」
ブロンクス「KENさん(BOY-KEN)もシャバ(・ランクス)みたいに跳ねながら歌ってた」