NEWS & COLUMN ニュース/記事

第497回 ─ タカダワタル的ライヴ

連載
NEW OPUSコラム
公開
2009/05/28   17:00
更新
2009/05/28   17:47
ソース
『bounce』 310号(2009/5/25)
テキスト
文/鈴木 智彦

人生という名の終わりなき旅を、高田渡の歌をつれて

  高田渡の音楽と出会うまでに僕はずいぶん遠回りした人間なので、彼のライヴをそれほど多く体験していない。回数で言えば、吉祥寺の町を愛車の自転車に乗ってぶらりぶらりといせやのほうへ走り去って行く彼とすれ違った回数のほうが多い(5~6回は目撃!)。だから、こうして貴重なライヴ映像の数々――息子・高田漣とのジョイント・コンサートに泉谷しげるとの共演、桂南光や三上寛ら多彩なゲストを迎えたステージなどなど――をまとめたドキュメンタリー映画「タカダワタル的ゼロ プラス」が劇場公開され、DVD化までされることは素直に嬉しい。さらに、自宅に保管されていたテープ類150本のなかから選曲された2枚組の未発表ライヴ音源集――30数年に及ぶライヴと旅の記録『高田渡、旅の記録 下巻』――までもが同時リリースされてしまうのだから、ちょっとした〈高田渡、完全復活祭〉みたいで嬉しさは倍増だ。

 和製フォーク精神の原点を大正~昭和の演歌師の伝統芸に見い出し、みずからその継承者たらんとした男。自我を貫き通した日本の近代詩人たちの孤独な魂の礼賛者~紹介者であり、みずからもその精神を継承した孤高の詩人。そして、そうした要素とアメリカン・ルーツ音楽のエッセンスを組み合わせ、独創的な和魂洋才折衷音楽を創造した音楽家。4年前にツアー先でふいとこの世から消えてしまった高田渡その人が、ひょっこり帰ってきて目の前で歌ってくれているみたいな素晴らしい内容のこの2作品を通じ、改めて高田渡という音楽家が遺していったものの大きさやかけがえのなさを感じ取ってもらえたらと思う。タカダワタル的な音楽(や精神)はいろんな人の心のなかで生き続け、その人の人生の旅の良き同伴者となり、そしてその旅はきっと止むことはない。

▼関連盤を紹介。