次松大助が見つめる、とある町の日常──

新年早々、春日井の〈トイザらス〉でジャイアント・パンダのエコ・バッグを買いました。鉄琴を持ち運ぶのにぴったりのサイズで、すごく気に入っています。2、3枚買っとけば良かった。
2~3か月に一度は本屋をウロウロするんですが、ここ半年でおもしろかった本を紹介します。
一冊目は「Newton別冊:iPS細胞/人工多能性幹細胞」という、ちょっとムズカシそうな本ですが、実際には難しくない、というかすごく分かりやすく書かれています。例えばイモリは脚を切断しても数か月で指先まで再成します。プラナリアという扁形動物に至っては、身体を3等分するとそれぞれが再成して3匹のプラナリアになるそうです。ただ、ヒトの場合は指を失った場合、それすら再成できません。これは人間の細胞が胎内の成長過程でそれぞれ専門化していくからです。つまり、皮膚の細胞は皮膚にしかなれず、筋肉や神経の細胞にはなれない、ということです。そんな指すら再成できないヒトも、受精卵などの段階では細胞が専門化されておらず、ほぼどんな部位にもなれる〈全能性〉という状態なのだとか。実際に受精卵(初期胚)からそれを取り出したものが〈E細胞〉と呼ばれるものですが、これは受精卵を用いることなどから倫理的な問題や提供者不足、患者と提供者が別人であるための拒絶反応などの問題があります。そこで、それらを克服したのが〈iPS細胞〉です。これは、例えば患者の皮膚の細胞に数種類の特定の遺伝子を送り、全能性だった頃の状態まで〈細胞を初期化する〉という方法で作られます。これを用いると近い将来、例えば肝臓に障害が出たときには人工的に作った正常な肝臓細胞を移植することで治療できるようになったりするわけです。そしてこの本のおもしろいところは、ここに書かれている情報が日々現実で更新されていることです。出版時にはまだ不可能だったことや、問題視されていたことが、〈Google〉の科学・技術ニュースなどを見るとひとつひとつ解決/発展しているので、リアルタイムに進歩が窺えます(でも医療が発達しすぎてみんなが100歳まで生きるようになったら、年金制度なんか不可能だ、と結局はお金の心配もするわけです)――字数がなくなりました。もう一冊は「よくわかる樹木大図鑑」。実際に野山を歩きながらその樹木の名前が分かるような親切な索引付き、フルカラーで1500円!は安すぎです。8500円しても間違いなく(泣きながら)買っていた、素晴らしい内容。50年使えます、本当に。
今月のBGM
McCOY TYNER
『Nights Of Ballads & Blues』
Impulse!(1963)
〈優しすぎて人を殺めてしまった青年〉のような顔ですが、本当に優しい。速いパッセージのなかにも繊細にサステインを置いて。初めて聴いたときは椅子から転げました。ピアノを弾かない人には伝わらないかもしれませんが、圧倒的に好きなジャズ・ピアニストです!
PROFILE
次松大助
スカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。ソロ・プロジェクト=箱の『long conte』が好評リリース中。3月5日、6日には箱として韓国・ソウルのイヴェントに出演。3月15日には大阪・梅田レインドッグスでライヴを行う予定。最新情報は〈www.miceteeth.net〉にて。