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第457回 ─ DECADE OF JAZZ-DANCE

連載
NEW OPUSコラム
公開
2009/02/05   18:00
ソース
『bounce』 306号(2008/12/25)
テキスト
文/池谷 修一

関西の地から世界のクロスオーヴァー・シーンを動かしてきたESPECIALが設立10周年!!


 〈東の修也〉〈西の好洋〉とKyoto Jazz Massive(以下KJM)=沖野兄弟の足場分担を書くとわかりやすいだろうか。沖野好洋は大阪で運営するレコード店〈ESPECIAL RECORDS〉を拠点に、長年関西のクロスオーヴァー・シーンを温めつつ第一級のパーティーを繰り広げてきた。その偉業に口を挿む者はもういないだろう。その彼が、自分が納得してプレイできる、本当に良いものだけをリリースするためレーベルも切り盛りするようになって10年が経つ。90年代の終わりは世界的に見てクロスオーヴァーの音楽偏差値が異常に上がった時期だが、好洋はその後も鍛え上げられた耳を駆使して極上のヴァイナルを切り続けてきた。

  そしてこのたび活動10年を期にKJM(=この名義の場合、主軸は好洋)の選曲となる未発表、未CD化音源を収めたスペシャルなコンピ『SO ESPECIAL』が登場した。もう爆音で鳴らしまくってほしい。フロア対応というのではない、現場をくぐり抜けた先に届いてくる曲そのものの良さ。それがヒシヒシと伝わる内容だからだ。ナヴァシャ・ダーヤ、ヴァネッサ・フリーマン、ポール・ランドルフ、ディヴィニティ。本物の品格を携えた黒い歌い手ばかりだ。それがフィル・アッシャーのソリッドでジャジーなハウスや、凄まじく切れ味の良いドムのソウルフルなブロークン・ビーツと結ばれる先に浮かぶ音像――かつてクロスオーヴァーやウェスト・ロンドンをつまみ食いした新しもの好きたち(?)に本当に耳があれば、ここにある深さを改めて知るべきだ。この盤に漲る充実に、いま出会った若いリスナーならスポンジとなるように聴いてみるのもいい。シーンは切磋琢磨を繰り返すことで必ず深まり、さらなる実りを生む。本作へ大きなリスペクトを込めて、本物の音好きたちに贈りたい。

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