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第9回――夢見る阿智本

再発先生奇談

連載
ロック! 年の差なんて
公開
2008/12/18   00:00
更新
2008/12/18   17:52
ソース
bounce 305号(2008年11月25日発行)
テキスト
文/内山田 百聞


続々とリイシューされる幻の名盤や秘宝CDの数々──それらが織り成す迷宮世界をご案内しよう!



〈居酒屋れいら〉の忘年会で若者が暴れ出したため、慌てて店を飛び出してきた。私は内山田百聞。売れない三文作家であるが、道楽のリイシューCD収集にばかり興じているゆえ、周りからは〈再発先生〉などと呼ばれている。そのあだ名を自分でもまんざら悪くないと思っているから始末に負えないのだが……。

しかし今夜は妙にムシャクシャする。いささか酔いが回ってはいるが、ふたたびどこか別の店で飲み直そうか……。その時、不意にあることを思い出した。いま私は海外に長期出張している友人のアパートの一室を気分転換の書斎代わりに借り受けているのだが、先日、そこの押入れの天井板が外れることを偶然発見したのだ。私はある企みを抱いてアパートへ向かった。

屋根裏に這いつくばった私は、快心の笑みを漏らしていた。予想どおり安普請の天井裏には所々に節穴がある。これで覗けるぞ、他人のCDコレクションが――音楽好きにとって他人のCD棚は非常に興味深い。鬱屈した気持ちを晴らすのに、これ以上の楽しみがあるだろうか。私はまず隣室の節穴に目を当てた。そこに見えたのは、小さな本立ての横に並んだEXILEと絢香と嵐のCDが3枚だけだった……。

気を取り直して次の部屋の穴を覗く。何とそこには壁一面の巨大なCD棚が鎮座しているではないか! おお、駄曲ナシのメロウ・グルーヴ傑作、〈オーストラリアのシュガーベイブ〉ことスタイラスの76年作『Where In The World』(Wea/ヴィヴィド)が見えるぞ!

その横にあるのはジャジーな雰囲気が素晴らしい、トム・ウェイツによる77年の発掘ライヴ音源『Live In Concert』(Woodstock Tapes)じゃないか。ここの住人はタダ者ではない!

あっ、初期の英国ハード・ロックを代表する一枚にして〈悪魔天国〉という邦題も凄い、ガンの68年作『Gun』(Epic/ソニー)もあるぞ。

さらに、フィル・マンザネラを中心にブライアン・イーノらも参加したプログレ・プロジェクト、801が残した76年の名盤『Live』(Polydor/アルカンジェロ)は、ボーナスCDが付いた紙ジャケ仕様のモノできちんと収集されている。

そして、おおっ、権利関係のためにCD音源が超入手困難だったデイヴ・クラーク・ファイヴの『The Hits』(Epic/Universal TV)なる編集盤がある! ついにまともにCDで聴けるのか! ん!? あまりの興奮のためか、急に動悸が激しくなっているのがわかった。その時、強い目眩が襲う……いかん、こんなところで意識を失っては……。

気がつくと私は、〈居酒屋れいら〉近くのゴミ捨て場の隅に横たわっていた。うぅ、吐き気がひどい……しかし……あの屋根裏の散歩はいったい……。