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第36回 ─ 他人の夢の話ほど退屈なものは無かろうて

連載
踏 切 次 第
公開
2008/11/27   03:00
更新
2008/11/27   17:03
ソース
『bounce』 305号(2008/11/25)
テキスト
文/次松 大助

次松大助が見つめる、とある町の日常──


  夜中に目覚めて口をすすぎに行くと、無意識に湯のほうの蛇口をひねっていたので驚いた。知らず、冬に包囲されているのだなぁと思った。

 まったく、どういった経緯で家に来たのか思い出せないのですが、数年前から家でマリモを飼っています。〈飼っている〉というのは不適切で、何となく玄関に置いている、という感じです。マリモを入れている小瓶の水が減ってくると、たまに足してやる、その程度の関係で、特に目につくところに飾られるわけでもなく、玄関の下駄箱の上の、隅のほうに放置されたまま微動する定位置を得ています。

 先日、知人が家を訪れた際に〈マリモって自然と同じ環境にしてやると、コレくらいになるねんで〉と、水槽に入ったテニス・ボールくらいの大きさのマリモを見せてくれました。驚き、魅せられた僕はさっそく水槽を購入し、淡水の水草を買い、ザリガニを2尾買って水槽に入れ、今はまだ空豆程度の大きさのマリモを入れました。その後、用があったのでスーパーに行き、小1時間ほどして帰って来て水槽に目をやると、その2尾のザリガニがちょうどボクシングのクリンチのような格好で抱き合っており、その間に挟まれたマリモは粉砕されて藻屑となっておりました。あぁ、やっぱりなぁ。僕はどことなくそんな気がしていたのです。ザリガニは危険過ぎた。

 少々落ち込んで、また小1時間ほどした後で水槽を見ると、今度はザリガニが共食いをしていました。ああああああぁぁ。やっぱり。頭をよぎったことが実際に起きていきます。そう、やっぱりコレは夢っぽいなぁと思いながら、ザリガニを捨てに行こうと思い、何故か以前住んでいたマンションの裏の用水路に行き、この辺でいいか、とザリガニを放すと、傍らにパーカッショニストの拳くらいの大きさのウシガエルがいて、それがザリガニの様子を窺っています。〈あ、やばいな。ザリガニ喰われそうやな〉と思っていると、用水路をスルスルとウナギのような生き物が下りてきました。〈ウナギ? ドジョウ?〉と思っていると、それはウシガエルに絡み付いて行きます。〈へー、ウナギってそんなふうに闘うんや、ヘビみたいやな〉と感心しつつ、もうこれは完全に夢やな、喉が渇いたし、もう飽きた。そう思って目を開け、洗面所に口をすすぎに行くと、無意識に湯のほうの蛇口をひねっていたので驚いた。知らず、冬に包囲されているのだなぁと思った。

今月のBGM


THE ROLLING STONES
『Sticky Fingers』
 
Rolling Stones/Virgin(1971)
岐阜の岩村という町でのライヴに誘ってもらいました。犬と子供率が高く、そして無償で手伝いをする美しい若者たち! きっと世界中でそういうものの価値は平等に捉え続けられるんだろうと思って。BGMは〈旅が楽しくなる一枚〉。

PROFILE

次松大助
99年に大阪で結成されたスカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。バンドのアルバム『07』、ソロ・プロジェクト=箱のファースト・アルバム『long conte』が好評リリース中。現在は曲作りや練習に没頭する日々。その他の最新情報は〈www.miceteeth.net〉にて。