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第160回 ─ アッコちゃん、T・ボーン・バーネットとのお仕事はどうでしたか~?

連載
360°
公開
2008/11/13   07:00
更新
2008/11/13   18:21
ソース
『bounce』 304号(2008/10/25)
テキスト
文/桑原 シロー


いったい何なんだろう、この迫力は? 矢野顕子の4年ぶりとなるソロ・アルバム『akiko』を聴くたび、そんな言葉を繰り返してしまう。どっしりと構えた彼女がいて、こちらを睨んでいるような感覚。〈アッコちゃん、カッコいいぞ!〉――久々にそんな声をかけたくなってしまうのである。そして本作のプロデュースを手掛けているのは、なんとT・ボーン・バーネットだ。かねてから彼のファンであった矢野からのオファーを受けたT・ボーンの返事は、〈私もあなたのファンだった〉という一言だったという。

「彼は『JAPANESE GIRL』が大好きだったみたいで、〈僕にプロデュースの話を持ってきてくれてありがとう〉って言ってくれて。それにはこちらもビックリした。で、思わず『JAPANESE GIRL』を聴き直しちゃった。そんなに良いアルバムなのかなと思って(笑)。そしたらもう、カッコ良かったわよぉ(笑)」。

『JAPANESE GIRL』は76年にリリースされた矢野のデビュー・アルバムだ。LAでリトル・フィートたちと互角に渡り合ったその時の彼女を、『akiko』は彷彿とさせてくれたりもする。

「音楽を作るうえでこんなにじっくり音楽と向き合っている感覚ってそのデビュー作以来かも。私はずっと自分で作品を作ってきたでしょ? だいたい自分で作れそうなものっていうのはわかってしまうわけ。だから期待どおりのものが出来ればそれでOK。でも今回、T・ボーンは私のなかの根元の部分を掘り起こしてくれて、〈ほら、こんなにでっかいジャガイモがあったじゃん〉って教えてくれたみたいな(笑)。そういう喜びって自分じゃ導き出せないから」。

 このレコーディングで、T・ボーンはベースレスという編成を設定。矢野の左手のフレージングを高く評価する彼は、彼女のピアノ・プレイの素晴らしさや魅力をアピールするためにこの形を取ったのだろう。そんなさまざまなアイデアが彼女に刺激を与え、「何か全部が全部、初めての体験と思えるほどだった」と感嘆させた。

 とにかくカッコイイ歌と演奏がテンコ盛り。南部テイストの粘っこいリズムが最高な“変わるし”や、重くハードなレッド・ツェッペリン“Whole Lotta Love”のカヴァー(マーク・リーボーのギターが超ワイルド!)など、矢野とT・ボーンの持ち味が見事にマッチした楽曲が並ぶ。ジャケットの如く、腕白でお転婆なアッコちゃんがそこかしこで暴れている感じだ。

「この写真ね……開放的な感じがする? でもスタッフはこれがいつもの私だって言うのよ。〈あら、そう?〉って感じ(笑)」。

 歌詞に目を転じると、先述の“変わるし”や“When I Die”など、彼女が持つ死生観をテーマにしたものが目立つ。それらにどのようなデザインを施し、説得力を持った歌に仕上げるかというディレクションの確かさもまた本作の優れた点のひとつだ。

「いままでのようなものとも違う、より自分のために書いた詞が多い。アルバム・タイトルも、以前、糸井重里さんから〈いつか『akiko』っていうタイトルのアルバムを作ってね〉って言われていたんだけど、今回の制作過程で〈もしかしたらいまかしら?〉って思って」。

 これまでになく剥き出しのアッコちゃんがここにはいる。マジでカッコイイぞ!

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