ビートルズの『Love』はいかにして生まれたのか?

2006年に発表された『Love』は、ビートルズのプロデューサーだったジョージ・マーティンと息子のジャイルズ・マーティンがビートルズの曲をリミックスし、新たな作品として蘇らせた、画期的なアルバムだった。もともと同作は、先頃日本にも常設劇場ができたシルク・ドゥ・ソレイユとビートルズとの共同企画による同名の舞台(2006年6月以降、ラスヴェガスではいまだに週5日、1日2回上演されている)のために作られたもの。そして今回リリースされたDVD「All Together Now」は、その舞台「Love」が完成するまでを追ったドキュメンタリー作品であり、両者がどのように手を組み、リハーサルから本番へとプロジェクトを進めていったかを、シルクの創設者や演出家、出演者、ビートルズのメンバーや関係者の発言を交えながら詳細に伝えたものだ。
ビートルズの曲をどのように舞台と一体化していくか。その緻密な作業を具体化していく行程がどれほど大変なものであったかは、例えばオノ・ヨーコが“Come Together”のパフォーマンスを観て〈あんなに低俗な曲じゃない〉と激怒する場面からもあきらかだが、その一方で、リンゴ・スターといっしょにプレヴューを観ているポール・マッカートニーが“Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(Reprise)”をいっしょに口ずさんだり、ドラムを叩く真似をしたりする場面もあったりする。また、“While My Guitar Gently Weeps”のアコースティック・ヴァージョンのオーケストラによるダビング・セッションで、生涯最後の指揮をするジョージ・マーティンの姿もあるなど、感動的な場面も少なくない。音質の良さも特筆すべきものだ。
マニアには、エンドロールで“No Reply”のスタジオ・セッションの断片が流れるのも観逃せないところだろう。また、45分を超えるエクストラ映像も本編と同様に充実した内容で、会場の音響や設備、レコーディング・スタジオでの会話の編集、衣装についての話など、いかに多くのスタッフの尽力によってステージが仕上げられていったか、その舞台裏の苦労が覗けるが、なかでも特に興味深いのは、マーティン親子が実際にミキサー卓の前でリミックス作業について説明している場面だ。ビートルズの遺産は、こうして新しい世代へと受け継がれていくのだ。その意味では、この映像作品は、〈ビートルズの現在〉を伝える貴重な記録でもある。
〈ビートルズはすごいバンドだと、第三者としてあえて言おう〉──舞台を観終わってのポールの言葉が強く印象に残った。