いまの時代を生きる温故知新なアコースティック音楽の旨み

幼い頃からさまざまな楽器に親しみ、大学ではジャズ・ピアノを専攻したというから、音楽理論の知識や演奏技術は折り紙付き。それからは映画やCM音楽の作曲、他アーティストへの楽曲提供など、プロの音楽家としてバリバリ仕事をしてきた人である。そういう人物がソロ作品を作ったら――大橋トリオは大橋好規のソロ・ユニットである――カントリー・タッチの軽快なロック、お洒落な歌ものジャズ、AORのように洗練されたソウル・ポップス、ヴァイオリンや鍵盤ハーモニカを駆使したドリーミーなバラードなど、楽器のぬくもりが直に伝わるアコースティックなポップ・ミュージック集に仕上がった。今回リリースされたニュー・アルバム『THIS IS MUSIC』は、レコード・ショップや口コミでの話題だけで5000枚以上のセールスを上げた前作『PRETAPORTER』に続く2作目。何回も聴きながら連想したアーティストは、ジェイムズ・テイラーやポール・サイモン、はっぴいえんど、スモーキー・ロビンソン、フランク・シナトラにバート・バカラック――といったあたりだが、そこにノスタルジックな再生産といった儚さは感じられない。例えば“JURADIRA”のリズムにはエレクトロニカを、“THINGS HAVE CHANGED”のギターにはヒップホップのループ感を見い出せるなど、〈2008年という時代に生きる音楽〉という感覚が込められているから、聴いている間は心地良くレイドバックしつつ、後に残る気分はとても前向きだ。アコースティック音楽の旨みがたっぷりと詰まった、理想的な温故知新型の作品である。