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第32回 ─ トッピングは胡瓜が好きです

連載
踏 切 次 第
公開
2008/08/14   01:00
更新
2008/08/14   18:25
ソース
『bounce』 301号(2008/7/25)
テキスト
文/次松 大助

次松大助が見つめる、とある町の日常──


 朝すっきり目覚めたので昨晩それほど飲んだ記憶はなかったんですが。
 
 ふとんの中でうつ伏せになり、ひじを立て、ひざを立て、四つん這いになってから起き上がり、冷蔵庫の中の麦茶を飲んでベランダに出て「眩し」と独り言を言ってタバコを吸って、コーヒーを入れようと思い自分の部屋に入ったら、昨晩飲んでいた焼酎の水割りの入ったムーミンのマグカップの中に、自分の携帯電話がひたひたと浸っていました。自責の念を込めて「梅干しやないねんから」とつっこんで、焼酎にトッピングされた携帯電話を取り出し、ティッシュで拭いて2、3度振って水を飛ばし、電源を入れてみると、おっさんの寝言みたいな振動音が鳴り、意外に損傷なく作動するのでした。

 やるなぁ。と思った矢先、液晶がすっと暗くなり、どこをどうしても画面は真っ暗で、ピクリともぴかりともしなくなってしまいました。そこまで来てようやく「なるほど、これはやってもうた系やな」と気付いたのでした。

 しかし、幾度かの水没経験によると、このまま2時間程放っておくと、不意に復活したりするものなので、放置しておくことにしました。

 ふむふむ言いながら、4時間後くらいに思い出して、少し充電してから電源を入れると、ふふふ。さすが水没王子です。ばっちり復活しました。しかし度重なる水没経験から察するに、この復活は一時的なもので、長くても二日程で完全に壊れてしまう筈です。だから、携帯内に大量にメモしている、僕にとってのみ大切な言葉の羅列を、この間に紙に書き写さなければなりません。なんというか、音楽家?としてイメージが湧いてくる言葉たちなのです。せっかくなので少し紹介すると、〈カレーライス君〉、〈ブロッコリーの森〉、〈ザ・アタッチメンツ〉、〈クッキング・ハイ〉、〈フロッグポリス(キャベツ太郎)〉、〈小倉優子のことで頭がいっぱい〉、〈パブリック太陽〉、〈家出カフェ〉、〈お酒カフェ〉、〈大きいのに俊敏に動くところに惹かれる心〉等、2~300ある下らないメモだったんですが、凡人が音楽家を気取るのに必要な、たくさんの魔法の言葉なのです。

 しかし、不意に僕が死んだとき、遺留品を整理する奥さんが少し笑えるように、携帯の〈時間割機能〉のところに一生懸命〈ボケ〉を仕込んでおいたんですが、それも消えるのかと思うと、まじ面倒くさいです……力作なのに。

今月のBGM

HAKASE-SUN
『人のセックスを笑うな』

nagomix
HAKASE-SUNの素晴らしい仕事です。しかも、これを聴いた後にHAKASE-SUNのソロ名義の方のアルバムを聴くと、より一層、腰の座った〈オリジナリティー〉というか、HAKASE-SUNを定義する〈何物か〉の存在が見えてくるんです。

PROFILE

次松大助
99年に大阪で結成されたスカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。バンドのアルバム『07』、ソロ・プロジェクトである箱のファースト・アルバム『long conte』が好評リリース中。現在は曲作りや練習に没頭する日々。その他の最新情報は〈www.miceteeth.net〉にて。