唯一無二のソウル・シンガーが残した足跡と、最後に到達した新しい歌世界を堪能しよう

今年2月23日、ライヴのために訪れていた大阪で急逝したORITO。ハイの名曲群を生んだメンフィスのロイヤル・レコーディング・スタジオを訪れ、アル・グリーンらを育てた名匠=ウィリー・ミッチェルのプロデュースで95年にデビューした彼は、やがてオーセンティックなソウル・ミュージックとブームを迎えつつあったR&Bの狭間で、個性を守りながら独特の活動を展開するようになっていった。ゴスペル経験などを通じて自己表現を模索した時期を経て、近年は下に並べたような作品への客演も活発化させながら、本人が言うところの〈俗塵にまみれたリアルな庶民の歌〉を体現すべく創作に励んでいた矢先の逝去だった。
そんな彼の歩みを改めて広く知らしめるべく編まれたのが、今回リリースされたベスト盤『THE IMMORTAL SOUL』だ。オーティス・レディングの没後作を模したジャケには言葉もないが、ここに収められた楽曲はそのまま和製R&B史の重要な一部であり、同時に彼の人間味に溢れたソウル・トラヴェルの記録である。メンフィス録音によるアルやサム・クックのカヴァーも、率直な日本語詞にトライした生々しいナンバーも同じようにソウルフルなのに驚かされるし、DJ HASEBEとの刺激的なコラボ“Dj. Feelgood”がディアンジェロ『Voodoo』より早かったと知ったら驚く人も多いんじゃないか。同曲で組んだK DUB SHINEの他、RY-DOUBLEやNeo、KREVAとの絡みも聴きどころのひとつだろう。
そして、生前から制作が進められていたニュー・アルバム『団子と珈琲』も同時リリースされた。スタジオ録音の5曲に、昨年のツアーにおけるライヴ音源を5曲、そしてT.Kuraと共作した98年のデモを加えた全11曲という構成は、もちろんアクシデントゆえの体裁ではある。ただ、ディープで泥臭いライヴの迫力には素直に圧倒されるし、彼が逡巡の果てに辿り着いた〈市井人のソウル〉という等身大の歌世界は、いなたくも感動的な最後のメッセージとして受け取るべきものだ。もう遅いけど、いまからでも遅くはない。ORITOのソウルは不滅だ。
▼同時リリースされたORITOの作品。
▼ORITOが参加した近作を一部紹介。