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第8回 ─ ディグの精神を身につけよ! ~BUDDHA BRAND『人間発電所』

第8回 ─ ディグの精神を身につけよ! ~BUDDHA BRAND『人間発電所』(2)

連載
サ イ プ レ ス 上 野 の LEGEND オブ 日 本 語 ラップ 伝 説
公開
2008/07/03   18:00
更新
2008/07/03   18:16
テキスト
文/東京ブロンクス


サイプレス上野がDEV LARGEにいただいたサイン色紙

ブロンクス 俺らはブッダの曲が出る前から「Fine」誌の〈MC教室〉を読んでたから、そこに載っていた“真心眼Funk”の歌詞を見て「これを書いてるナムブレインのD.Lって人は何者なんだ?」って思ってたよね。

上野 あのコーナーは次元が歪んでましたよね(笑)。一応、NY情報のコーナーだったんだけど、現地特派員って感じでDEV LARGEさんが書いてて。しかも紙面がほぼ手書き(笑)。

ブロンクス 〈さんピンCAMP〉のビデオに映ってる帰国直後のライヴって行った?

上野 あれは行けてないですね……。

ダース あの時点ではアナログ出してるだけでしょ? それでヴェルファーレが満杯になるってすごいよね。

上野 意味がわからない(笑)。あのアナログも速攻で売り切れたじゃないですか。

ブロンクス “人間発電所”のアナログは、一時は1万2000円くらいまでプレミアが付いてたもんね。緑が初回だっけ。

上野 そうっすね。次が青。プレスごとにレーベルの色を変えるっていう。KAZZ-Kに「お前の色なに?」って訊かれたことありますもん。

一同 (爆笑)。

上野 「青? あっそう」みたいな。それでランク付けされちゃって(笑)。

ブロンクス それは掘り師の価値観だよね。「オリジナル盤が一番」という。

ダース まあ当時のシーンで、全員が買わなきゃいけないという使命感を持たされたものだったね。でもほんとブッダは〈外国人〉だよね。聴覚上での日本語ラップ感が全然なかった。

ブロンクス プロ野球の外人枠みたいな。俺もランDMCとかパブリック・エナミーから入ったから、スチャダラとかにはまる前は「日本語でラップなんて絶対できるはずねぇ」って思ってたもん。

ダース ブッダはさ、ちゃらい日本語ラップとは明らかに違ったじゃない。あと〈NY帰り〉ってのもあったしさ。

上野 確かに「本場でやってたからすごいだろう」っていうのはあったかもしれないっすねえ。

ダース 当時は野茂がアメリカで活躍し始めた時でしょう。そういう「日本人かっこいい」みたいな感覚が出てきたよね。マック鈴木とか西島洋介山とかさ(笑)。その時代にブッダが出てきたっていうのはでかいんじゃないかな。

上野 〈逆輸入〉だ。俺らにとっての〈黒船〉はリア・ディゾンじゃなくてブッダでしたよ。

ブロンクス マジでいまのリア・ディゾンくらい流行ってたよね。B-BOYだけじゃなくてV-BOY*3もみんな聴いてた……こんな言い方したら怒られるか(笑)。
*3  Vネックのセーターやロングコートを着て、メッシュの入ったロン毛で、色黒で……みたいなスタイルの男をこう呼んだ。後のギャル男。

ダース 洋楽リスナーとしては、いきなりECDとかRHYMESTERには入れなかった。もうワン・クッション欲しいってところでブッダがいたんだよね。

ブロンクス 日本にいたMUROくんがNYのものをガーッと掘ってたのに対して、NYにいたDEV LARGEが座頭市とかを逆に掘ってたのも面白いよね。でも最近、そういうディグの美学がなくなりつつあるのはマジでやばいと思ってるよ。ネットで探すのは簡単だけど、「中古で3枚ヒットしたから、いま買わなくてもいいや」ってことにもなるじゃない。

ダース それは掘り師からしたらあり得ない考えだよね。レコードは一期一会だから。

上野 ブッダのジャケにもありましたよね。どこかのコンヴェンションでレコードを掘ってる写真が。

ダース そうやって幻想を膨らませるのがうまかったよね。そこはプロレスチックだったと思うし。

ブロンクス でもその会場にはたぶん、バックワイルドとかラージ・プロフェッサーとかQティップがいたわけでしょう。

上野 それを言われると「へへー!」としか返せないすよね(笑)。

ブロンクス これを読んでるようなキッズも、日本語ラップ以外でディグの精神を身につけて欲しいよね。そうしないとほんとに日本語ラップが死んじゃうと思うんだよ。

ダース MITSU THE BEATSとかもそうだと思うんだけど、俺らの世代は絶対DEV LARGEやMUROからディグを教わったわけじゃない。彼らのアートワークとかサンプリングがなかったら、そういうことをやろうとも思わなかったかもしれない。

上野 STERUSSが新しいアルバムで鈴木勲さんと一緒にやってるのも、ブッダのネタになってたってのがきっかけなんですよね。もうブッダありきで。

ダース ネタは財産だからね。DEV LARGEは自分のビートをレコード会社に送るときも、「~月~日にこのビートはもうできてる」って証明を残しておくんだよ。勝手に使われないように。「何を言ってるんだ?」とも思うんだけどさ(笑)。

ブロンクス でも、そういうこだわりがなかったら、ただの盗みになっちゃうわけでしょう。〈盗みの美学〉が大切だよね。

上野 そうっすね~。高校時代、DEV LARGEにデモ・テープを渡してたけど、元ネタとか訊けなかったですもん。訊いたら殺されるんじゃないかくらいに思ってて(笑)。そこでDEV LARGEさんにデモを渡したら「なに戸塚なの?」って言ってくれて。住んでたことがあるらしくて。いまだに戸塚ネタで話してくれる(笑)。

ダース DEVさんと調子よく「うぃーす」なんて仲良くなってるやつもいるけど「なんであいつ、レコードも大して買ってねえくせに仲良くできるんだ?」とか思って。俺としては、万全の準備ができてないと話しかけられない人って感じだった。いまでもそうだよ。

ブロンクス 俺はDEV LARGEさんにだけは一度も話しかけたことないんだよね。特殊なオーラがある。

ダース こないだ一緒にクラブに行ったときさ、かかってる曲のドラム・ネタを全部言うんだよ。「あ、このスネアは~じゃん」とかって。いやほんとに!

上野 ええ~!? それ凄すぎますよね……。そういえば昔、DEV LARGEさんがクラブに来たときに、サンプリングの曲じゃないときは、ずーっと腕組んで動かなくて、サンプリングした曲がかかったら動き出したっていうのをKAZZ-Kが見てたらしくて(笑)。

ダース (爆笑)。それは都市伝説っぽいけどいいね。そうあってほしい。

ブロンクス スウィズ(・ビーツ)のビートでクラップとかしながら腰を揺らしてたらショックかも(笑)。あの人のビートは腰じゃなくて主に首に来るっていうか。それはもう20世紀と21世紀のヒップホップの違いだよね。

ダース 俺はもうDEV LARGEが日本最高のプロデューサーだと思ってるから。“人間発電所”だって、あれはいま聴いたってすごいビートだと思うからね。インストも入ってたじゃない。

上野 “人間発電所(オマエもこの気持ちよさにやられちまいなMIX)”(笑)。インストを推してる感じが昔からありますよね。