エルマロのポップ職人によるソロ作は包容力溢れる穏やかな一枚

久々のアルバム『NOFACE BUTT 2 EYES』を発表したばかりのエルマロの2人が、それからわずか3か月でそれぞれソロ・アルバムを発表した。だが、まったく傾向の異なるこの2作品を聴けば、〈エルマロにはあきらかに二面性がある〉ということを伝えるためのエルマロ復活プロジェクトだったことがわかるだろう。こちらアイゴンこと會田茂一の『SO IT GOES』は、轟音で黙々とギターを掻き鳴らすイメージとは違い、ほぼすべての演奏と歌を1人で器用にこなす多才さを活かしたポップな一枚。昔からジャンルを問わずハード・ロックもニューウェイヴもシンガー・ソングライターものも分け隔てなく聴いてきたというリスナーとしての蓄積が素直に出たような内容で、お得意のエッジーな感触のギター・プレイも楽しめるが、彼の髭面からは想像できないソフトで穏やかな歌声を堪能できるナンバーが印象的だ。そして何より認識を新たにさせられるのが、木村カエラの“リルラ リルハ”などの作曲者としても知られるそのメロディーメイカーぶり。音像そのものはまるでUSインディーのようなラフな作りだが、どの曲にも人懐っこく覚えやすい旋律がしっかりと敷き詰められている。そういう意味では、アルバム・タイトルにもなったニック・ロウのカヴァーにゲスト・ヴォーカルで参加しているピンバックのロブ・クロウや、同じようにすべての演奏を1人でこなしてしまうジェイソン・フォークナーのソロ作なんかを個人的にちょっと思い出した。
子供が生まれたことが大きな契機になったというアイゴン。歌詞も含めて一見内省的でパーソナルではあっても、ポップ・ミュージックに対して開かれた姿勢が静かな主張となって伝わってくるのが本作の大きな魅力だろう。