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第46回 ─ まつきあゆむ

連載
SPOTLIGHT!
公開
2008/06/05   17:00
更新
2008/06/05   19:11
ソース
『bounce』 299号(2008/5/25)
テキスト
文/ヤング係長

これまで以上に己を剥き出しにした、鮮烈な自己表明アルバム!


  ビートルズを絶対的な音楽ルーツに持ち、くるり、椎名林檎、ナンバーガールら、90年代後半に登場したアーティストの影響を思春期に受けまくった文科系宅録ロッカー、まつきあゆむ。2005年デビューの彼にとって4枚目のミニ・アルバムとなる新作『まつきあゆむ』は、自身を指して使う言葉〈初期衝動〉の一歩先が見えてくる作品だ。

 宅録とバンド・サウンドの折衷を実践した前作『夕暮れの現代音楽』よりもさらにバンド感を増し、宅録の面でも悩み抜いた末に自家中毒から脱出したような風通しの良さを見せている。ここでセルフ・タイトル作を持ってきた理由は、彼の覚悟がこれまでとこれからとで違うことの表れであろう。かつての作品に見られた安易なサンプリングがここでは皆無。それは、表面的な繕いを排除したということだと思う。筆者がかつて取材した時に彼は「自分は他のミュージシャンに対する劣等感がある」と打ち明けてくれたが、そういう気持ちが晴れた証なのかもしれない。90年代の音楽から得た恩恵をめいっぱい詰め込んだ最終曲“メタモルフォーゼ”は、過去の自分との訣別の曲と言ってもいい。

 彼の言う〈衝動〉とは、音楽の論理主義に対するアンチでありながら、無邪気を装う盾でもあったはずだ。本作での歌詞やメロディー作りにおける〈わかりやすさ〉は、彼が武装していた鎧を脱ぐ宣言であり、言い訳を抜きにして自分がなにをするべきかを訴えるものではないだろうか。恐らく無意識であろうが、ここにはもがいている状況すら作品として見せ続ける男が辿り着いた美しさがある。

▼まつきあゆむの作品を紹介。