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第87回 ─ Qomolangma Tomato @タワーレコード渋谷店 2008年5月21日(水)

第87回 ─ Qomolangma Tomato @タワーレコード渋谷店 2008年5月21日(水)(3)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2008/05/29   18:00
更新
2008/05/29   18:47
テキスト
文/土田 真弓

  ゆったり刻まれるバスドラとスネアにエフェクトが重ねられ、一音一音に広く、深い奥行きが生まれる。寄り添うように加わるギター&ベース。セカンド・アルバムに充満する〈闇〉の質感――その自家中毒的な世界からの脱却の糸口となるエモーショナル・チューン“静寂と壁と闇”から、チョモ・クラシックとも言える初期衝動ナンバー“through your reality”へ。〈逃げろ〉と〈逃げるな〉、相反する詩世界の象徴として屹立するこの2曲が、爆音のなかで一体となって頭上から降り注ぐ。

  場内が狂騒に覆われるなか、時に、石井はこちらがたじろぐほどに壮絶な目をする。ワンマンの時も同じような表情を見せることがあったが、その目線はフロアを突き抜けて、どこか遠くに向かっているように思えた。〈逃げろ〉と〈逃げるな〉の狭間で彼は何を見据えているのかと、ふと考える。

  「俺たちが何枚CDを出そうと、どういうふうに流通しようと、ライヴをやるのは俺たちで、音楽を聴くのは君たちなんだ。俺たちは俺たちを裏切らないし、聴く人も裏切らない。そういう音楽をずっとやっていきます。Qomolangma Tomatoでした。ありがとうございました」。

 フロアが歓声で沸くなか、彼らの新機軸が如実に反映された“359°は捨てる”のイントロが響き渡る。ディレイが施されたギター、不適なビート、表情を殺したメロディーライン、鋭利な言葉の波状攻撃。〈押し〉と〈引き〉の絶妙なバランスが楽曲に甚大な爆発力をもたらし、破壊的なグルーヴが場内を覆い尽くす。頭が真っ白になりかかりながら、この曲の冒頭、石井による〈ロウ〉なつぶやきには、ニルヴァーナ“Smells Like Teen Spirit”と同種の匂いがあるなぁ、と思ったりする。

  アンコールは“蒸発のイメージ”。小倉と石井が示し合わせたように宙を舞う。このふたりに限らず、この日のステージではメンバー4人の一体感……と言うと何だか陳腐な物言いだが、パフォーマーとしてのカタルシスが4人に同時に訪れている瞬間を多く見た気がした。バンドとしての結束、そしてタフさがさらに増している。負のエネルギーに満ちた世界観をこれほどダンサブルに響かせることができるのも、その賜物なのだろう。