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第29回 ─ Moominism(ムーミニズム)

連載
踏 切 次 第
公開
2008/05/22   04:00
更新
2008/05/22   17:49
ソース
『bounce』 298号(2008/4/25)
テキスト
文/次松 大助

次松大助が見つめる、とある町の日常──


  ……白波。最近、さつま白波、すごいうまい。何だこれ。近すぎて気付かなかった恋人みたいな。〈女性でも飲みやすい〉とか〈芋焼酎とは思えない爽やかさ〉とか、そんな研究、西麻布辺りのバーでやってくれってんですヨ。何だこれ。大袈裟過ぎない芋の香りとコクと、重過ぎない軽過ぎない喉ごしと余韻。俳優の加瀬亮さんが60を過ぎた頃に高倉健さんほどには頑な男気を身に纏わず老成した場合……みたいな、さらっとして優しいんだけど、言葉では言い表せない何か〈奥行き〉のようなものを携えた佇まい。
 
 いままでは祖母(宮崎県小林市に住んでいる)に〈明月〉という芋焼酎を好きでよく送ってもらっていたんですが、明月は宮崎ではわりとスタンダードなものの、こちら(大阪)ではやはり入手が難しく、日々飲むには供給面で問題があったのですが、白波、さつま白波。うまい。何だこれ。うまい、本当にうまい。

 例えるなら「ムーミン」で、ムーミンが冬眠中にふと目覚めてしまい、外に出たところ、スキーをして遊んでいるミーと出くわして灯台の方へ冒険した際、灯台守に「もうすぐ氷姫が来るから危ないよ」的なことを言われ、ミーが案の定、氷姫にちょっかいを出して氷らされるも、ものの一分ほどで氷が溶けて「恐かったね」で済むような、それに代表されるムーミンの〈何か起こりそうだけど、大したことは起きない〉という逆説的なシュールさ、故に不思議な妖精の物語であるにも関わらず妙に現実的に心に響く、〈Moominism(ムーミニズム)〉というシステムにも似た、さらっとしているのに奥行きがある、と言うよりは、さらっとしているからその奥行きが響く、という、何だか〈翼の王国〉の商品カタログみたいな表現をしたくなる深い味わいで、〈週末の恋人〉というよりは〈平日の相棒〉な感じです。

 常温、ロック、常温の水割り(氷無し)、お湯割り(70℃くらいのお湯)が個人的には好きです。パッケージの裏曰く、〈ことさら媚びず、ことさら凝らず〉です。まさに! ここ2週間ラブラブです。白波と。

 あと全然関係無いですが、ムーミンが歩くときの〈ぴょこぴょこ〉という効果音、すごく可愛いです。

今月のBGM

VARIOUS ARTISTS
『Spiritual Jazz』

Jazzman
ある特定の趣向の人に「巨乳、童顔」というDVDを勧めるがごとく、あまりに直球なタイトルに初めは躊躇したものの、聴いてみればまさに宝の山でした。すべての楽器がこのジャンルの為に開発されたのではないかと思うくらい格好良かったです。

PROFILE

次松大助
99年に大阪で結成されたスカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。バンドのアルバム『07』、ソロ・プロジェクトである箱のファースト・アルバム『long conte』が好評リリース中。ひたすら曲作りに没頭中の日々。その他の最新情報は〈www.miceteeth.net〉にて。