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第5回 ─ ECD『ホームシック』~シーンきってのアウトサイダーが辿った道程

第5回 ─ ECD『ホームシック』~シーンきってのアウトサイダーが辿った道程(2)

連載
サ イ プ レ ス 上 野 の LEGEND オブ 日 本 語 ラップ 伝 説
公開
2008/04/03   18:00
更新
2008/04/07   12:21
テキスト
文/東京ブロンクス


病んだ音をシーンに提示したカンパニー・フロウの97年作『Funcrusher Plus』

磯部 “いっそ感電死”は、カンパニー・フロウより早かったって、トラックを作ったクボタ(タケシ)さんが自分で言いまくってるよね(笑)。

ブロンクス 確かに、この違和感っていうかザワザワした感じのセンスは相当早いよ。

磯部 このドラムの打ち方とかもエルP*3っぽい。
*3 カンパニー・フロウの中心人物。現在はソロで活動。

ブロンクス 黒人ばっかりのNYのヒップホップ・シーンの中にエルPがいる感じと、自分より若い人達の中で活動してた石田さんのアウトサイダー的な立ち位置はちょっと似ている気もしなくはない。

磯部 ニューウェイヴっぽい感じとかね。

ブロンクス 自分のルーツを隠さないし、隠せないという。

上野 石田さんはそもそもレゲエDJですもんね。

ブロンクス 〈アンダーグラウンドDJコンテスト〉に石田さんは「レゲエDJはDJだ*4」って出ちゃったのもすごいよね(笑)。それで優勝してるし。
*4 レゲエにおける〈DJ〉は、一般的にヒップホップにおける〈MC〉を指す。

磯部 当時はDJブームだったんだよね。とにかくDJが脚光を浴びてる時代で、ラップは添え物みたいな。

上野 DJブームの中で、TINY PUNXとかと石田さんってどういう関係だったんだろう?

磯部 石田さんは近田春夫のボーヤだったんだよ。その辺のことについては、最近出た石田さんの自伝「いるべき場所」に詳しいよ。

ブロンクス 〈いるべき場所〉っていうのは、『ホームシック』の頃にはエイベックスでヒットも夢見たけど、あれから色々あって、いまに至って。結局、俺がいる場所はあそこじゃなくてここだった……っていう意味でしょうね。

磯部 そうだろうね。でも、根本はあんまり変わってないんだけどね。参加している人もツボイさんとかクボタさんだし。

ブロンクス 渋い!! いつか「タモリ倶楽部」にゲストで出ないかな。空耳スペシャルとか。

磯部 『BIG YOUTH』のネタは全部和モノって聞いたけど。外国の曲も、日本人がカヴァーしてるものをサンプリングしてるって。“バイブレーション”は笠井紀美子ネタだけど、そういう和モノ使いも、このアルバムから本格的に始まったよね。

上野 そうすね~。“バイブレーション”の元ネタ聴いたときは「やられた~」と思いましたもん。「超かっこいい!」って。

ブロンクス この時なんか魚眼の写真のポスター無かったっけ?


ECD“DO THE BOOGIE BACK”の広告

上野 それ“DO THE BOOGIE BACK”の短冊シングルのジャケでしょう。ここにフライヤーがありますけど。

磯部 これだ。この頃の石田さんおしゃれだねえ。横に写ってんのはリカだっけ?

上野 リカ(笑)! リカも短冊シングル出してましたよね。“キス/この道”。

ブロンクス 〈元祖渋谷系ラッパーECD〉って書いてある(笑)。

磯部 俺は“AM I SEXY?”のラップが一番好きなんだよね。これはトラックを作ってるクボタさんについて延々ラップしてて、ディス・ソングのパロディになってる。子供心にもユーモアのレベル高いなあと思ってた。

ブロンクス そうなんだ! いや、いま謎が解けましたよ。「Fine」誌の〈MC教室〉でこの曲の説明を見て「これ誰のことディスってるんだろう?」ってずっと思ってて。

磯部 分かるだろ。普通……。

ブロンクス 磯部くん、ちょっと他にもECD豆知識を教えてくださいよ。

磯部 なんと言っても、このアルバムが重要なのは、こんなすごいのに、石田さんはこのとき童貞だったっていう。

ブロンクス えっ!? マジで?

上野 やばいなー。先輩さすがだなー。

磯部 〈さんピン〉の時だってそうだったんだから。「J-RAPは俺が殺した」とか叫んでるとき童貞だったんだもん。それはすごい偉大なことだと思うよ。詳しくは小説の「失点イン・ザ・パーク」を読みましょう。童貞をこじらせてる人は勇気付けられるよ。

ブロンクス 現代の宮沢賢治だね。俺だったらサバ読んじゃうよ。石田さんがアル中から復帰したのはいつ頃なんですか?

磯部 『Season Off』かな。その前の『Thrill Of It All』を作ってる途中で倒れたんだよね。退院してから残り半分を作った。「あれ(『Thrill Of It All』)が一番おかしい」って言ってたよ。

上野 昔のロックとかだったらそういう話もよくあっただろうけど、20世紀から21世紀をまたごうとしている時期にそれって熱いな(笑)。吉野にもそういうストーリーを背負わせようかな。

ブロンクス ヒップホップは特にストーリーが大切だよね。よくよく考えるとLB系とさんピン系をつなぐミッシング・リンクみたいな役割もあった人だよね。

上野 アルバムにどっちの人も参加させてますからね。「実は仲いいんだ」みたいな。