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第10回 ─ ラジオの時間の時間

連載
ディラン・ディラン
公開
2008/03/27   16:00
更新
2008/03/27   17:28
ソース
『bounce』 297号(2008/3/25)
テキスト
文/bounce編集部

なんでもかんでもボブ・ディランを中心に物事を考えるディラン・フリークの2人が、アンタにディランの魅力を伝えるため、今日も語り尽くすぞ!!


ディラン・ディランの2人がラジオ出演することになった。地元のローカル局で放送されている〈ラジオの時間〉という番組に、〈フォーク・ミュージックに詳しい人〉と推薦されて招かれたのだ。かねてから挙動不審な2人であるが、今日はいつも以上に様子がヘン。目の前に缶コーヒーを並べ、次々と栓を開けては一気に飲み干している。果たして彼らは無事に役割をまっとうすることができるのだろうか?

ダイサク・ディラン(以下DD)「(ゲップをこらえながら)……え~と、今日のお喋りのテーマが〈フォーク・ミュージックについて〉なんだけれども、フォークといえば何をさておき……」

シロー・ディラン(以下SD)「……ボブ」

DD「そう、ディランですよね。で、ディランといえば〈テーマ・タイム・ラジオ・アワー〉のCD(※1)が出ましたが」

SD「え~、説明しますと、アメリカでディランがDJを務めるラジオ番組が放送されているんですよ。毎回〈母親〉〈父親〉〈車〉、それに〈銃〉なんていうテーマを決めて、それに沿った楽曲を流すという内容です。で、このたび、そこで放送された曲を集めたコンピがリリースされまして」

DD「古い曲から最近の曲まで入ってるけど、なんかワクワクさせられる曲ばかりなんですよ。〈アメリカン・ポピュラー音楽の宝庫〉みたいな仰々しさはなくて、イカしたポップ・ミュージックがてんこ盛りで」

SD「カントリー、ブルース、ジャズ、ジャイヴ、ソウルにパンクまで入ってるもんね。ディランのルーツやバックグラウンドが何かを知るための良い手引き書になり得るコンピだけど、古き良き時代へのオマージュも強く伝わってくるのがポイントですかね。前々作〈ラヴ・アンド・セフト〉(※2)に漂ってたムードも発見できたりして」

DD「ラジオを聴くことが音楽を聴くことと密接に絡んでいた時代へのオマージュね。自伝にもラジオに関する逸話が結構出てきたけど、彼は昔もいまも大のラジオ好きだからね。このコンピにはラジオ壮年のセンスが炸裂しているよ」

SD「なんか選曲から〈俺ってヒット曲が大好き!〉って感じが伝わってこないっすか? シリアスな男ってイメージとこういうミーハー部分の振り幅がディランのおもしろさ。なんか学究的なお堅い感じではなく、ほんとポップなんだよね」

DD「聴き手の期待するイメージをさらりとかわすところはあるかも。でもポップ・ミュージックってそもそもシンプルに楽しむものだから。みんな日本の音楽を〈J-Pop〉って括るけど、これは間違いなくアメリカの音楽、〈A-Pop〉だよ。彼はすべてを分け隔てなく聴いてるんだろうな」

SD「そういえば、こないだの細野さんのアルバム(※3)もこのコンピと似たような傾向の作品だったよね?」

DD「そうそう、彼はディランの大ファンで、ラジオのエアチェック音源をアメリカの友人から送ってもらって聴いているらしいよ。2人とも、ワクワク・ウキウキ音楽しか聴きたくないって境地なのかもね」

SD「ジャイヴ(※4)系の選曲なんかにもそんな気分は表れているかな。それにしてもクイーン・オブ・ソウル(※5)に始まってNYパンク(※6)で終わるDisc-2が最高!」

DD「テックス・メックスやロックステディまで入ってて、ハズシ度もバッチシ。これさ、コンピっていうよりも〈DJディラン〉のミックスCDじゃん?ってのが俺の感想」

SD「あ、スゲエいいこと言ったね! あとレディ・デイ(※7)とか彼の憧れの人の曲が並んでるけど、ディランが〈俺もこういう曲を書きたい!〉って言いたげじゃない?」

DD「それもナイスな指摘だよ! なんか音楽家というより人間ディランが透けて見えてくる。ディランの家のレコード棚とか、部屋着姿のディランが浮かんでくるよ」

SD「髪の毛ボサボサで、ソファーで菓子パンをかじってるディランとかね」

DD「俺が言いたいのはさ、ラジオってさ、そもそもが気軽なメディアなんだよ。それを使って自由にこういう曲を流しまくってるディランはすげえカッコイイってこと。じゃそういうわけで、コンピから一曲……」

 ……とそこに「ちょっとぉ~あんたたち、フォークの話が全然出てこないじゃない!」というディレクターの怒号が響き、録音は中断。ディランのラジオ番組に倣ってコンピの曲をかけまくろうとした2人の目論見は脆くも破綻した。その後、番組が用意した四畳半フォーク曲をかけつつ、強引にコンピ話を続けた彼ら。その回が実際に放送されたかどうかは……。

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