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第9回 ─ [特別編]初日の出ィランディラン

連載
ディラン・ディラン
公開
2008/02/21   19:00
ソース
『bounce』 295号(2008/1/25)
テキスト
文/bounce編集部

なんでもかんでもボブ・ディランを中心に物事を考えるディラン・フリークの2人が、アンタにディランの魅力を伝えるべく、今年も語り尽くすぞ!!


  ここは大晦日のグリニッチ・ヴィレッジにあるコーヒー・ハウス。ディラン・ディラン in NY。彼らは映画「アイム・ノット・ゼア」(※1)を観るために渡米していた。NYといえば、ディランが音楽家としてのスタートを切った街。今回2人は、ゆかりの場所を巡る〈ディラン観光〉を敢行しており、ちょうどいまはコーヒーをすすりながら一年を振り返っているところだ。

ダイサク・ディラン(以下DD)「やっぱNY。コーヒーカップがデカイね。それにしても、2007年はディラン・フリークにとっちゃ、たまらない年だったな。ドント・ルック・バック(※2)とかニューポート(※3)のDVD化もあったし、何と言っても例のベスト盤(※4)が話題だったね」

シロー・ディラン(以下SD)「トラヴェリング・ウィルベリーズ(※5)のリイシューもあったな。ディラネスク(※6)も忘れられないね。前の年のアルバム『Modern Times』の好評がもたらしたディラン景気っつうか、ディラン再評価の気運がぐっと高まった年だった。そんな年の締め括りに〈アイム・ノット・ゼア〉がきて……」

DD「(遮って)コーヒーもう一杯! あのさ、昼間にフォーク音楽のメッカだったブリーカー・ストリートを歩きながら映画のサントラを聴いてたんだけど、これがやたらハマったんだよ。〈やっぱディランってNYのミュージシャンだな〉って改めて感じたね」

SD「この旅で、NYの街が音楽家としての彼を育んだってことを再認識させられたな。〈るつぼ〉感とか、ひんやりした空気とか」

DD「あと、街のスピード感とかな」

SD「そういやさ、あれ観たかったよな、ブロードウェイのビーコン・シアターで11月にやった〈I'm Not There Concert〉。サントラの参加者たちが集結したんだよね」

DD「アル・クーパーとかジョー・ヘンリーも特別に参加してな。ディランの30周年を祝ったあの大コンサートに匹敵するよ」

SD「サントラの参加者を見ると、NYを拠点とする連中が揃ってるね。ヤー・ヤー・ヤーズのカレン・Oとかアントニーとか、それにぺイヴメントのスティーヴン・マルクマスとか……」

DD「(遮って)コーヒーもう二杯! そうそう、トム・ヴァーラインとかソニック・ユースとかヨ・ラ・テンゴとか、みんなディランの遺伝子を引き継いだ人だからね。そんな彼らがディラン・ソングの持つ尖った部分をクローズアップさせるようにカヴァーしてるっていう」

SD「ひょっとしたら、ソニック・ユースのファンは、彼らがここに参加していることを〈どうしてなの?〉って不思議に思ったりするのかもね」

DD「ありえるな。パンクやオルタナ・ロックを作り出した奴らもディランズ・チルドレンだった、ってことだよな。あと、ウィルコとかオルタナ・カントリー系もそうだよね。全部ディランと繋がってんだよ」

SD「その血脈をはっきりと証明したのが、このサントラだと言えるよね……あれ? あそこに座ってギターいじってる人、トム・ヴァーラインに似てない?」

DD「ん? つうか本人だよ!! おい、あっちでおばあさんに手相を見てもらってるのって、もしかしてスティーヴン・マルクマスじゃねえか!?」

SD「ほんとだ!! 流石はNY。これはひょっとすると、御大もいたりして……あ、ディラン……だ」

 その時、店のスピーカーからあまりにグッドなタイミングで、サントラ収録のディラン自身による“I'm Not There(俺はそこにいない)”が流れ出した。盛り上がった2人が「コーヒーもう2008杯!」と吠えながら店を出て、騒がしい街へと繰り出すと、知らないうちに年は明けていて、通りには朝日が射し込んでいる……。〈Happy new year!〉という挨拶が飛び交うなかを、2人は“I Shall Be Released”を歌いながら歩いた。〈I see my light~♪〉とハミングしつつ、〈今年もディランを追い求めるぞ〉と決意を新たにする2人であった(続く)。

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