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第135回 ─ マッド・マイクが語り倒すURの新作、そのスピリット

連載
360°
公開
2008/01/17   20:00
ソース
『bounce』 294号(2007/12/25)
テキスト
文/門井 隆盛

WHO'S MAD? マッド・マイク・バンクスの電子闘争


 89年、デトロイト。ジェフ・ミルズとマイク・バンクスは、音楽だけでなく、さまざまなメッセージを伝えるために、アンダーグラウンド・レジスタンス(以下UR)を設立した。以来、ラジオやTVでつまらない音楽を繰り返しプレイする〈プログラマー〉たちと闘い続けてきた。URはこの闘いを〈ソニック・レヴォリューション〉と呼んでいる。彼らはつまらない音楽を単純に責めているわけではない。その裏に隠されたメンタリティー、そしてこうしたプログラミングが及ぼす悪影響について、シリアスに考えているのだ。

 2007年、URは『Electronic Warfare 2.0 -The Other Side Of Bling』をリリース。〈電子闘争〉と名付けられたこの作品は、95年に“Galaxy 2 Galaxy”以来2年ぶりにUR名義でリリースされ、デトロイトのゲットー・スタンダードであるエレクトロを好戦的かつファンキーなパーティー音楽として甦らせたとして高い評価を得た2枚組EP『Electronic Warfare』の続編である。今回、URの総帥であるマイク・バンクスにメールでインタヴューをするという貴重な機会を得ることができた。最初に尋ねたのは、〈なぜURは続編をリリースしたのか?〉──何気ない問いに返ってきた答えは強烈だった。

「URを始めて20年闘ってきたけれど、まったく状況は変わっていない。貧困、犯罪、麻薬、破滅、教育や医療の欠落、失業……希望を持つことができない状況はいまも続いている。無知や暴力などがTVやラジオの電波を使って降り注がれている。この腐敗は俺たちの未来である子供たちに悪影響を及ぼすものだ。俺たちは変化が起きるまでレジスタンスを続ける。この作品はドラッグ・カルチャー、大企業、弊害を生み出すことを気にしないメディア、そして過剰なマテリアリズムや資本主義などに対する警告だ」。

 つまり、人々に問題提起をするために音楽を作る――これがURの考え方だ。しかし、音楽を手段として選ぶのはなぜだろう?

「アート、音楽、レジスタンスはスピリットを運ぶものであり、スピリットのみが死に打ち勝つことができる。抑圧と戦って死んでいった人の作品は永遠に人々を感動させ続けている。たとえ身体は死んでも、作品でスピリットを伝えることはできるんだ」。

『Electronic Warfare 2.0 -The Other Side Of Bling』のジャケには、ピカピカの新車の横で死んでいる少年の写真が使われている。〈作品を通じてもっとも伝えたかったことは何だろう?〉と問うと、激情のこもった答えが返ってきた。

「まず、(ドラッグ・ディーラーの抗争のように)利益のために人を殺すことは許されない。まるで同胞を奴隷として売って稼いだアフリカ人のような考え方じゃないか。現在のアメリカ黒人の状況は祖先に比べればずっとマシだ。それは祖先が大きな犠牲を伴う勇敢な闘いを挑んで、もたらされたものだ。それを忘れてはいけない。しかし、それを忘れてしまった奴らがいる。飼い慣らされ、人生を築くことは〈できない〉が、ギャングスターのような人生は〈できる〉と思ってしまっている奴らがいるんだ」。

 私たちが何気なく観ている、拝金主義ヒップホップのプロモ・クリップやブラック・ギャング映画の世界観。彼らは、それがアメリカ黒人の尊厳を傷つけるものだと感じているのだ。

「俺たちの祖先は6週間も鎖に繋がれ、自分たちの小便や糞にまみれて連れてこられた。そして、400~500年もタダ働きをさせられた。それでも、それに耐えてきたんだ! だから、その遺伝子を受け継いでいるってだけで強いスピリットを持つことができる。俺たちは何だって〈できる〉んだ! 不可能を成し遂げた祖先たちのように、URは強く影響力を持った存在でありたいと思っている。そして、俺たちに〈できない〉と言ってくる人間を拒否しつづけるんだ! 〈できない〉って? もう俺たちはやってるぜ! キッズはもっと〈できる!〉というメッセージを発する人々を必要としている。すべての人々が〈できる〉〈やった〉〈キミたちにもできる〉ということを伝えていくべきだ。子供だけじゃなく、俺たちがどんなクソな状況からやってきたのか忘れているセルアウトたちも、それを知るべきだ」。

 最後に〈もし1億ドルもらったらどうする?〉と訊ねたら、「歴史の教科書では〈奴隷制度の頃、黒人は虐げられていた〉とされている。でも、勝利を収めた話だってあるんだ。そういった隠された歴史を映画にしてみたい」という答えが返ってきた。

 URは本気で闘っている。俺たちはどうだ?

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