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第14回 ─ ルーマニアの妖精

連載
Bar YAMAGA
公開
2008/01/10   20:00
ソース
『bounce』 294号(2007/12/25)
テキスト
文/〈Bar YAMAGA〉のバーテン

武藤昭平による、〈憧れのアーティストたちと酒場でいっしょに酒を飲んだら?〉――という深夜の妄想話!

5:00am  〈ルーマニアの妖精〉

 29時。アカ抜けないルックスをした11人の男衆が、店内でガナリ立てる。対立するのはケンカ腰のシェイン・マガウアン(ポーグス)、ジョニー・デップ、そして巻き添えを喰いそうなイギー・ポップと俺。一触即発。だが、11人の集団の言葉は理解できない。「やるんならやっていいんだぞ」と強気のシェイン。「いや、ケンカはマズイって」とジョニー。11人はその何語かわからない言葉で相談すると、おもむろに楽器を取り出した。そして、われわれに向かって演奏を始めたのである。大太鼓1人に後は管楽器。ジプシー音楽のようなメロディーだが、異常にテンポが早い。するといちばん酔っているシェインが、幻覚でも見ているかのように言った。「何だこの音楽は。言葉もわからないうえにこの音楽。ここは不思議の国か? 俺はアリスか?」。するとジョニー「いや、彼らはむしろ森の中で白雪姫を助けた連中じゃないか?」「いや、それ7人ですよ」と俺。「妖精みたいだな……っつうかテンポがいちいち早い」とイギー。

 そして数曲演奏した彼らはわれわれに手を差し出した。「えっ、何?」、するとBar YAMAGAの店員が教えてくれた。「彼らはファンファーレ・チョカリーアといってルーマニアのバンドなんですよ。たまに〈流し〉で来てくれるんです。お金を払ってあげてください」。一同に沈黙が走った。「何だ、〈流し〉の押し売りか」とイギー。俺もお金を払いながら彼らに話しかけてみた。「ルーマニアか……ルーマニア? コマネチ?……コマネチ?」。すると無表情な彼らが反応した。「ルーマニア! コマネチ!」「何だ、言葉通じるじゃねえか。ルーマニア? コマネチ?」とシェイン。ファンファーレ・チョカリーアのメンバーも表情が和らぎ出して「ルーマニア! コマネチ!」、ジョニーも「ルーマニア! コマネチ!」と彼らと握手をはじめる。すると店中で「ルーマニア! コマネチ!」の大合唱。笑顔のままファンファーレ・チョカリーアを送り出した。店内が明るい雰囲気に戻ったところでのジョニーの一言。「店員さん、最初に言っといてくれよ。〈流し〉とか、ルーマニアとか」。すかさずシェイン「朝の5時にあの音楽を聴かされて、急に酔いがひどくなってきたな。やっぱり奴らは妖精かも。なんかヤラレた気分だ。ちょっとトイレに行ってくるよ」。

……武藤昭平、あくまでも妄想の話。

深夜29時の妄想盤

FANFARE CIOCARLIA 『Queens & Kings』 Asphalt Tango(2007)
いつも旅の途中に立ち寄っては壮絶な演奏を披露してくれる彼ら。残念ながら今夜当店に来られなかった皆さんは、ステッペン・ウルフの力技カヴァーも収録した本作をぜひチェックしてみてください。ただし朝方に聴くと、シェインさんみたいになる恐れあり!?

CHOCOLAT 『Soundtrack』 Sony Soundtrax(2001)
ジョニー・デップさんがジプシー役で登場する本編のサントラは、ジプシー音楽調の枯れたトラックをズラリと収録した一枚。なお、ジョニーさんはファンファーレも登場する映画「ジプシー・キャラバン」のサントラにライナーを寄稿するほど、このシーンに精通していたりも!

PROFILE

武藤昭平
ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気を博す伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。大好評のカヴァー・アルバム『LET'S GET LOST』(エピック)と同タイトルを冠したマンスリー・イヴェントが、先日ファイナルを迎えたばかり。そんななか、12月27日(木)には2007年最後のワンマン・ライヴを東京・SHIBUYA-AXで開催。その他の情報は〈www.katteni-shiyagare.com〉でいますぐチェック!