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第25回 ─ アン・イタリアン・イン・実家

連載
踏 切 次 第
公開
2007/12/27   11:00
更新
2007/12/27   17:28
ソース
『bounce』 294号(2007/12/25)
テキスト
文/次松 大助

次松大助が見つめる、とある町の日常──


  牛乳に相談しながら生きてきたので骨折はもちろん、虫歯にもなったことがなく、歯医者には小学校のとき一度フッ素を塗りに行ったことがあるだけだったのですが、昨年頃から奥の方に虫歯ができました。だから、新年の抱負は〈お金を貯めて歯医者に行く〉ことです。OLが〈ボーナス入ったらグアムに行く!〉みたいな感じです。

 最近のトピックスとしては、母が一人暮らしの実家に、身の丈2メートルのイタリア人がホームステイしに来たことです。兄の知り合いらしく、3か月ほど日本(東京)に来ていて、最後に2泊ほど母の家(大阪)に泊めてもらうようでした。

 〈大丈夫かオカン?〉と思ったので、ちょっと様子を見に行ってみると、平井堅似の物腰の柔らかそうな青年で、とりあえずは心配なさそうでした。自分のことを「ダニエル?」と名乗るイタリアンは、日本語が過剰に上手で、母が「焼酎飲む?」と尋ねると、「ウー、カゼ、ヒテテ、コーセーブシツ? 飲ンデルカラ、大丈夫、ウフフ」と〈大丈夫〉の〈結構です〉的な意味合いの使い方を見事に把握しているのでした。

 ダニエル、実はかなり勉強家で母国語のイタリア語のほか、英語、フランス語、日本語が喋れるらしく、日本語の常用漢字も〈一応習った〉らしいです。ミラノの大学を卒業後、ローマの大学に通っているらしく、「ソコデ三島由紀夫ヲ研究シテイル」と言っていたので、「じゃあ美輪明宏は知ってる?」と尋ねると、「ウフフ、イマハ、チョット、コワイ。ウフフ」と言っていました。
 
 母が貰い物の明太子を出すと、器用にお箸を使って食べて「ン、スパイシー」と言っていました。ので僕も「スパイシー! チョーウケルー!」と日本の変な側面を垣間見せようかと思ったんですが、さすがに失礼かと思い、無難な人として対応しました。

 ダニエル、イタリアに戻るとすぐ日本語の試験があるらしく、「日本語ノ先生、コワイ」と何度も言っていました。次の日の朝早くに四国の、僕が初めて聞く名前の島に行くらしく、ダニエルはかつて僕が暮らしていた部屋へ「オヤスミナサイ」と言って帰って行きました。

今月のBGM

美輪明宏
『白呪』

エレック/PARCO
歌うますぎです。いまでこそ、ストイックな外見で凡人の理解を越えていますが、歌を聴けば、あの見た目に共感はできなくとも納得はできます。いまだに日本を代表する歌手だと思うのですが。

PROFILE

次松大助
99年に大阪で結成されたオリジナル・スカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。バンドのニュー・アルバム『07』が好評を博すなか、ソロ・プロジェクトである箱のファースト・アルバム『long conte』がリリースされたばかり。その他の詳細は〈www.miceteeth.net〉にて。