ボブ・ディランを中心に物事を考える2人による、あの連載の出張版だよ!

彼らは偶然にも、出張で中日ドラゴンズの本拠地である名古屋にいた。互いの手には黄色い袋がブラブラ揺れている。今日は12月5日。〈ニューポート・フォーク・フェスティヴァル〉(※1)のリリース日だ。もちろん2人は早速ゲットしていた。
ダイサク・ディラン(以下DD)「そういえば、〈ディラン・ザ・ベスト〉(※2)のジャケって赤色だったよな?」
シロー・ディラン(以下SD)「うん。それがどうした?」
DD「ということは、ひょっとして近々青盤が出るかもしれんぞ! それにしても……我慢できなくない?」
SD「じゃ、行きます?」(と、2人は歓楽街へと消えていった)
DD「63年、フェスに初登場したディランって髪がクリクリで、新聞売りの少年みたい。可愛いな。フォーク・リヴァイヴァルのシンボルとして登場し、みんなから歓迎されていたんだな」
SD「監督は映画(※3)と同じくマレー・ラーナー。ただ記録するんじゃなく、当時の音楽シーンで新たな大波だったフォーク・ムーヴメントを検証するかのように撮影してたんだな」
DD「で、翌64年になると髪型も汚くなって、顔色も悪そう。目が危ねえぞ。20代前半のたった1年でここまで老けるとはね。ただ、パフォーマンスは神々しささえ感じさせるようになったな」
SD「ディランがプロテスト・フォークから独自のフォーク・ソングを歌いはじめた時期。どこか〈俺は俺、君らとは手を組めない〉というムードを漂わせているよな」
DD「そして問題の65年だ。完全に異質な空気を発してる。サングラスに黒服の反逆スタイル。“Like A Rolling Stone”のリハがいいな。音出しもクソうるさいエレクトリックで、メンバーみんなノリノリ。フォーク・フェスなのにさ」
SD「――あぁ、観客のブーイングが始まった。〈ノー・ディレクション・ホーム〉(※4)でもこの映像が使われてたけど、こうしてフェスの一連の流れのなかに置かれると、ショッキング度が高まるな。それにしても、どの演奏もスゲエ格好良い。観客が大嫌いなロックをプレイするっていう極めてアウェイな状況だから、より毒の混ざった攻撃的なものになってる」
DD「ラストはアコギ一本での“It's All Over Now, Baby Blue”。時代から置き去りにされていく運命にある保守的な人たちに向けて、怒りを込めて〈バカ〉とかじゃなく、そっと諭すような歌い方をしてる。実際にはこの65年あたりからロック・ルネッサンスが興隆していくわけだよな──〈マッチをまた一本擦って、新しく始めるんだ/もう全部終わりなんだよ、ベイビー・ブルー〉。歌詞の最後の一節がやけに象徴的だな……」
DVDのエンドロールが流れ出したところで、ヘッドフォンを外した2人がため息をつく。ここは深夜のマンガ喫茶。80分間、狭い個室で寄り添いながら1つの画面を凝視していたのだ。
SD「日本シリーズでの中村ノリ(紀洋)の涙には感動したね」
DD「八方塞がりになって停滞せざるを得なくなったが、場所ややり方を変えてリフレッシュ。で、勝利。まるでディランだ」
SD「ひょっとしてノリに〈風向きを変えろ〉と告げたのはディランだったのかもな。そうか、それでブルーを選んだのか……」