次松大助が見つめる、とある町の日常──

バンドのツアー初日の楽屋で、本番前にサックスの武井さんが、「友達が、大人になるまでずっとトマトには砂糖をかけて食べるものやって信じてた」という話をしていて、どうやらその友達の両親がイタズラ心からそのように信じ込ませていたそうです。20数年かけて。そういえば僕の妻も、スズムシか何かが鳴いているのを「ミミズが鳴いてる。ミミズが鳴いてる」と言って聞かず、毎年口論になります。妻の場合は多分、彼女の兄からそういう類いの冗談を受けたのだろうと思いますが。
……ナルホド。それはちょっと楽しそうです。偶然、うちには10か月の子供がいます。何かチョッとした冗談を信じ込ませるにはかなり良いタイミングです。20年後くらいに子供が社会に出て初めて「アレは親の冗談だったのか」と気付く、かなり長いスパンの悪巧みです。しかし、長期に渡る計画だけに、慎重に考えねばこちらにもリスクが伴います。例えば「スシのネタとシャリのあいだにガリをはさむ」というルールを作ったならば、せっかくふんぱつして家族でおスシを食べに行った際に、こちらもそのルールに従わねばならず、非常に面倒です。なので 〈ロー・リスク、ハイ・サプライズ〉な冗談を考えねばならないわけです。
これは、なかなか難しいお題です。試しに幾つか考えてみたものの、「実は、養子である」や「イカは噛まずに飲み込む」など、ちょっと冗談の域を越えたものばかり浮かんできます。「イカは~」に関して言えば下手をすれば死んでしまいますので、これはやはり、もう少し時間を掛けて考えていきたいと思います。
さて、先日、元メンバーの元彼女に、妻を通じて幸田文の「季節のかたみ」という随筆集を借りました。高校や大学のときに比べればまったく本を読まず、最近では年に4~5冊読むか読まないかなのですが、コレはおもしろかったです。幸田文がわりとお婆ちゃんになってからの随筆を編纂したもので、いろいろな物事、出来事、現象、12の季節などについて書いています。お婆ちゃんは生まれたときからお婆ちゃん、父親は生まれたときから父親、ではないことが最近ようやく分かってきた僕にとっては、あやや(幸田文)の物の捉え方がとても新鮮でした。子供の頃に知った小話を年齢と共に見直して感心し、70歳を過ぎてその小話に対して「いいご縁だったと思う」と言う、その時間の長さと深みと感覚に、僕も久しぶりに「長生きしてみたいなぁ」と思いました。
今月のBGM
箱
『long conte』
Almond Eyes
アル中がおもちゃ箱をひっくり返してしまい、そこに転がった人生の喜びや悲しみを見つめる、という内容です。ウソ。でもまぁ、だいたいそんな感じです。真心と魂と音楽に対する愛情を込めて、かなり本気で作りました。
PROFILE
次松大助
99年に大阪で結成されたオリジナル・スカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。バンドでのアルバム『07』に続き、ソロ・プロジェクトである箱の初アルバム『long conte』がリリースされたばかり。その他の情報は〈www.miceteeth.net〉にて。