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第134回 ─ 百花繚乱! 麗しく咲き誇る日本の女性R&Bシンガーたち

連載
360°
公開
2007/12/20   21:00
ソース
『bounce』 293号(2007/11/25)
テキスト
文/川口 真紀

 ヒップホップやレゲエの界隈があれこれ賑わう一方、層の厚さという意味ではまだまだ遅れを取っている日本のR&Bシーンですが、かつてのブームもすっかり記憶の彼方へ消え去った最近になって、ふたたびその勢いを増してきているようには思えないでしょうか? 洋楽スタイルとの距離の取り方に腐心してきたかつてのアーティストたちとは異なり、シーンの今後を担うシンガーたちは最初からR&B育ちの新世代ばかり。充実した作品が登場してくる準備はとっくに出来上がっていたのかもしれません。ここでは寒い冬をパワフル&セクシーに賑わせてくれる女性アーティストたちを紹介しますよ!
(編集部)

山口リサ それだけ歌に人生を賭けてるから……


90年代後半に盛り上がりを見せた日本のR&Bが、いまふたたび活況を呈している。R&B/ヒップホップが一般リスナーにも聴かれるようになったことで、最初からR&Bを歌うことを目的としたシンガーが増えてきたことや(以前はブームに便乗して〈やらされていた〉アーティストも少なくなかった。だからこそブームは終焉したのだろう)、リスナーの耳にもR&Bサウンド/スタイルが定着したことがその盛り上がりの大きな要因だろう。ここに紹介する浜松出身のシンガー/ソングライター、山口リサもそんな〈シーンの申し子〉ともいうべきシンガーのひとりである。

 詩吟の先生だったという祖父の影響で3歳頃から歌いはじめ、小学校5年生の時にTVドラマの主題歌だったマライア・キャリー〈恋人たちのクリスマス〉を聴いてR&Bに興味を持ったという彼女、「小学生の頃から漠然と歌手になりたいなとは思ってた」そうだが、シンガーをハッキリと志すようになったのはクラブで歌うシンガーやDJ、ダンサーの格好良さに衝撃を受けてからだそうだ。

「中学3年の時に付き合った彼氏がDJで(!)。それでクラブに行くようになったんですけど、そこにいるDJやダンサーを見て、世の中にこんなにカッコイイ人たちがいるんだと思って。そこからブラック・ミュージックにどんどんハマっていって、私もクラブで歌いたいと思うようになったんです」。

 10代でのクラブ通いについては時効ということでお願いしたいが、そこから地元・浜松のクラブを中心に活動を始め、デモ作りも開始。そのデモが現在も彼女を担当しているディレクターの耳に留まったことで数々のコンピに参加するようになり、そして昨年インディー・レーベルからファースト・アルバム『I'M READY TO GO』をリリース。静岡県下だけで2,000枚以上のセールスを上げた同作のヒットを受けて、いよいよ活動の場をメジャーへと移すことになったのである。と、字面だけ見るとここまでトントン拍子できた感じもするが、いかんせん15、6歳の頃からクラブで歌っていたのだから「長い道のりでしたよ~(笑)」というのも納得のいくところだ。彼女ほど〈クラブ発のシンガー〉を地で行っているシンガーも、そうはいないだろう。

「自分が影響を受けた90年代のR&Bの要素を全面に出したかった」というメジャー・デビュー・アルバム『Platinum Blesslet』。「自分の新たな側面を引き出してもらえたし、すごく勉強になった」と語るHI-D参加の“アイノアト”や、マライアばりの高音ヴォイスを披露する“My Place”、そのマライアのカヴァーで、「レコーディングで煮詰まった時に気晴らしに歌ってみただけだったのに、収録されることになってしまって、いまになって焦ってます(笑)。けど、イマっぽい仕上がりにはなったかな?」という“Emotions”など全14曲、前向きでピュアなR&Bナンバーがたくさん詰まった一枚となっている。インディー時代からの付き合いだという制作陣も〈わかってらっしゃる〉トラックを提供しており、その心地良いR&Bサウンドにも自然と身体を委ねてしまうだろう。もちろん彼女の澄んだ歌声も聴き応えたっぷりだが、その柔らかい歌声とは裏腹に、彼女の歌にかける思いには並々ならぬものがあるようだ。

「アーティスト名を特別凝ったりせずに〈山口リサ〉って本名でやっているのは、それだけ人生を賭けてるから。そういうものじゃないですか、リズム&ブルースって。これからもそれくらいの気持ちを持って歌を歌っていきたい。日本の文化を大切にしながら、日本にブラック・ミュージックの素晴らしさを伝えていけるようなシンガーになりたいですね」。

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