希代のエンターテイナーにして、ヒップホップの未来を担うラッパー、サイプレス上野の新連載! 日本語ラップへの深~い愛情を持つサイプレス上野と、この分野のオーソリティーとして知られるライター・東京ブロンクスの二人が、日本語ラップ名盤を肴にディープかつユルめのトークを繰り広げます。今回取り上げるのは、伝説のヒップホップ・ユニット、キミドリの93年作『キミドリ』。記念すべき第1回から(こそ?)、ひたすら濃厚に語り倒していただきました!

●今月の名盤:キミドリ『キミドリ』
クボタタケシ、石黒景太(KURO-OVI)、アオキマコトの3人によるヒップホップ・ユニット、キミドリが93年にリリースしたファースト・アルバム。ECDやU.G.MANらをフィーチャーした“大きなお世話(SAY WHAT)”など8曲を収録。なおキミドリはこの後、96年に『OH, WHAT A NIGHT!』を発表し活動を休止。(bounce.com編集部)
ブロンクス じゃあ、このアルバムを買った時の話から。
上野 これ買ったのは……たぶん中一か中二ですね。リリースが93年だから、出たすぐ後くらい。
ブロンクス 早いね。俺は94年だったな。ちょっと俺の話して良い? 高校模試の時に、近所のCD屋でこれ買ってから友だちと合流したんですよ。そしたら同級生の今の会社の社長に「お前、その〈キミドリ〉ってなんだよ」って言われて。それからしばらく、あだ名がキミドリになったんだよね(笑)。上ちょ(上野氏)が一番最初に買ったヒップホップはなんなの?
上野 中学生の頃に一番聴いてたのはジャジー・ジェフ&フレッシュ・プリンス。“Boom! Shake The Room”とか、家でクソでかい音でかけてた。あとノーティ・バイ・ネーチャーのファースト・アルバム。あのチェーンソーのジャケ見て「こいつらやばい!」って思ってた(笑)。日本語ラップではスチャダラかなあ。
ブロンクス “今夜はブギーバック”より前だよね。
上野 そうだね。あと、あの頃はアイスT聴いてた。アイスTはやばかったな~(笑)。

アイスTの93年作『Home Invasion』
HOTCHI(上野マネージャー) 上野がその頃、アイスTの『Home Invasion』を持ってきて「これ真っ暗な部屋でひとりで聴いてたら絶対不良になるぞ」って言ってた(笑)。
ブロンクス 確かに『Home Invasion』って、あの当時は最も過激なアルバムとされていたよね。でもアイスTをかっこいいと思うセンスと、キミドリをかっこいいと思うセンスは結構近いと思うんだよ。感覚的なものっていうか、アイスTはボディ・カウントみたいなバンドもやってるし。
上野 確かに近いかも。ボディ・カウントのビデオをTUCKERさんの家で見せてもらったんだけど、マジでハンパなくて。ものすごいデカい黒人がダイヴしてて、酷いと思った(笑)。
ブロンクス アイスTって黒人のラッパーとしては珍しく、メタルとヒップホップをクロスオーヴァーした感覚を持ってるやつだけど、キミドリもそういう感じだよね。別にギターの音が入ってるとか、そういうわけではないのに。石黒さんの声がもう、ラップなのにヒップホップじゃないという特殊な感じ。
上野 そうだね。かつ声が良すぎるから衝撃だった。スチャの“Get Up And Dance”でも、キミドリの二人のパートだけ、どう考えてもおかしい。かっこよすぎた。石黒さんは、シャカゾンビのファースト・アルバムでのフィーチャリングなんかでも、全部もってっちゃう。あの人のラップ力ってなんなんだろうと思って。一発で空気変えちゃう人ですよね。あと言ってることが、ヒップホップ的に理論武装してない。
ブロンクス ハードコアの人たち特有の、ストレートな毒づき方だよね。
上野 『キミドリ』は中学時代、CDウォークマンでほんとにずーーっと聴いてましたね。いまだに旅行に行く時とかクルマの中とかで聴いてる。相方の(ロベルト)吉野のクルマを廃車にするんで、箱根の山で壊したことがあったんですけど(笑)、そのときに“自己嫌悪”をかけててすげえ良かった。またひとつ思い出ができたなっていう。あと、キミドリは普通の友だちにすごい受け入れられる。スケボーだけやってるやつとか、他のラップは聴かないけど、キミドリは好きだったりして。スケボーの要素っていうのはでかいですよね。
ブロンクス そうだね。しかも汚いスケーター。〈THRASHER〉って感じの。