昨年の来日公演で逞しく成長した姿を見せてくれたクレイグ・デヴィッドが、2年ぶりのニュー・アルバム『Trust Me』をリリースした。多様に深化した彼の音楽性は、信じるに足るだけの進化を遂げているぞ!!
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レーベルの消滅という憂き目を乗り越えて大復活を果たした前作『The Story Goes...』から2年、クレイグ・デヴィッドの通算4枚目となるニュー・アルバム『Trust Me』が登場した。これに先駆けては、右頁で紹介しているケイノのシングル“This Is The Girl”に客演してTOP20ヒットに貢献しているのだが、客演自体をほとんど行わなかったクレイグだけに、何かしらの心境の変化を窺わせたものだ。いずれにせよ、10代での恵まれたデビューから7年を経て、彼自身がふたたびキャリアの再設定を図ったとしてもおかしくはないだろう。果たして、今回の新作は十分すぎるほどの新展開を備えた意欲作となっている。まず注目すべきは、過去3作からのヒットにもれなく関与していた盟友のマーク・ヒル(アートフル・ドジャー)が参加していないことだろう。彼に替わってプロデュースの中核を担っているのは、ケイティー・タンストールやジェイムズ・モリソンらを送り出してきたマーティン・テレフェと、クレイグとは旧知のフレイザーT・スミスだ。そのフレイザーはデビュー当初のクレイグが行ったアコースティック・ツアーに帯同していたギタリストで、一時はクレイグとトリーツなるユニットを組んでいたこともある。その後の彼は先述のケイノをメジャーに押し上げ、いまではジャメリアやムティア・ブエナ、プランBらを手掛けるアーバン系の人気クリエイターとなっていて、クレイグにとっては成長したかつての相方とふたたび手を組んだ格好になるわけだ。
で、そうした布陣のとおり、作中には程良い安定感と野心的な試みの巧みな共存が見て取れる。デヴィッド・ボウイ“Let's Dance”をベタ敷きした先行シングル“Hot Stuff(Let's Dance)”こそ強烈な飛び道具だが、女性シンガーを絡めたアコースティックな“Awkward”、スタイリスティックス“You Are Everything”をネタ使いした切ないスロウ“Kinda Girl For Me”などはいつになくオーセンティックな仕上がりが逆に新鮮な佳曲だ。一方でアレンジの幅は広くなっていて、“She's On Fire”のようなレゲエもあるし、キューバンなノリでエイメリー“1 Thing”を引用した“6 Of 1 Thing”やインコグニートっぽい“Don't Play With Our Love”などのアップではいままで以上にライヴ感が重視されているようだ。そうしたバランスから聴後に思い浮かんだのはロビー・ウィリアムス、あるいはジョージ・マイケルだったりしたのだが、ずいぶんイメージを変えたジャケを見れば、それもあながち間違いではないように思える。多彩な楽曲のなかに伝統的な英国気質を滲ませた本作は、成熟したクレイグの新たなデビュー作と呼べるものかもしれない。