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第12回 ─ シェイン、カムバック

連載
Bar YAMAGA
公開
2007/11/22   11:00
更新
2007/11/22   17:29
ソース
『bounce』 292号(2007/10/25)
テキスト
文/〈Bar YAMAGA〉のバーテン

武藤昭平による、〈憧れのアーティストたちと酒場でいっしょに酒を飲んだら?〉――という深夜の妄想話!

3:00am 〈シェイン、カムバック〉

 27時。店にやって来たシェイン・マガウアン(ポーグス)に店員が一言、「お客様、すいませんが飲食物の持ち込みは禁止してるんです……」。シェインは片手にビールの入ったジョッキを持って店に入って来たのだ。「あ? じゃあ、このグラスの中のビールを捨ててまた同じ量のビールを入れてくれ」。厄介そうな雰囲気だ。その時、シェインが俺に声を掛ける。「お、ムトウ。お前の隣りで飲んでいいか?」と俺の隣りに座るシェイン。するとシェインの持ち込んだグラスにビールを注いだ店員が戻ってきた。「お客様、今回は特別にサーヴィスしてますが、普段はこういったことを行っておりませんので、次回からはグラスにしろ持ち込みは……」「うるせーな。俺はアイリッシュだ。ガタガタ言うな」。意味がわからないし、厄介だ。しかもフラフラだし。

 居合わせたイギー・ポップが俺に訊く。「ムトウ、あれは誰だ?」「ポーグスのシェインですよ。ヴォーカルの」「ああ、アイツか」。するとシェインがイギーにカラミはじめる。「お、イギーさんじゃねぇか。アンタ昔のヤク中の時が最高だったのに。なんで最近のライヴは客をすぐステージに上げてんの?」。イギーはその言葉に少しカチンときたらしく、こう切り返した。「アル中でバンドをクビになった奴にいちいち言われる筋合いはねぇよ」「俺はバンドをクビになんかなってねぇって。みずから辞めたんだよ、あの時はな。そしてちゃんとバンドに戻ったろ?」。緊迫した雰囲気に俺の苦肉の一言。「シェイン、また前歯抜けたんじゃない?」「酒を飲むのに歯はいらねぇだろ」。するとイギー「ヴァン・モリソンもお前のことは誉めてんだ。酒絡みの悪業以外はな。俺だっていろいろ足を洗ってこの歳までがんばってる。お前も酒の量減らすなり、少しは努力したらどうなんだ」「モリソンなんてアイリッシュのダメ男だ。気にもならないぜ。アイツは駄作しか作ってない。あ、“Moondance”はいいが。それと“Gloria”もいいね。っつうかイギーさんよ。俺から酒を取ったら何が残るんだよ!」。

 もう本当に嫌な雰囲気になってきた。そんな時、一人の男が店に入ってきた。「あ、シェイン。ここにいたの? 探したよ。さっきまでいっしょに飲んでたのに急にいなくなってさぁ。周りに迷惑かけてない?」。周囲の人たちに気を遣うこの男の正体はジョニー・デップである。
……武藤昭平、あくまでも妄想の話。

深夜24時の妄想盤

 
SHANE MACGOWAN AND THE POPES 『The Shake』 Warner Bros./ZTT(1995)
ジョッキを持参した人は開店以来初ですが、〈みずからバンドを脱退〉し、発表したこのソロ作でもジャケに違わぬろくでなしオーラが全面に張り付いております。なお、ここでもジョニー・デップさんはギターを片手にヘロヘロのシェインを好サポート!

  
VAN MORRISON 『Moondance』 Warner Bros.(1970)
いくら口の悪いシェインさんでも、“Gloria”と本作のタイトル曲はやはり褒めざるを得ないわけで……。同郷の大先輩である彼のことを今夜はボロクソに言ってますが、なかなかどうして、この人の黒光りする渋いヴォーカルは男なら誰でも一度は憧れるものですよね。

PROFILE

武藤昭平
ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気を博す伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。バンド結成10周年を記念したカヴァー・アルバム『LET'S GET LOST』(エピック)や、そのアルバムと同名のマンスリー・ライヴが話題沸騰中。最新ニュースは、〈www.katteni-shiyagare.com〉で!