世界中の尖ったアーティストたちを唸らせる〈エキゾチカの達人〉がニュー・アルバムを発表!

音の魔術師、エキゾチカの大家――三宅純を形容する言葉は数限りないけれど、彼ほど何が飛び出してくるかわからない、音のおもしろさを体現するアーティストはいないんじゃないか。CMや映画音楽を手掛ける作家として、クールなジャズメンの横顔を見せるセッション・ミュージシャンとして、そしてソロ・アーティストとして、独創性の塊のような作品を発表してきた。特に93年発表にした『星の玉の緒』での映像喚起力に溢れた音世界は、共同プロデューサーを務めたハル・ウィルナーからも絶賛された。また『Glam Exotica!』(99年)、『Innocent Bossa in the mirror』(2000年)を聴けばわかるように、菊地成孔や井上薫よりも早く、日本におけるエキゾティシズムの在り方を示したアーティストだと思う。
7年ぶりとなる新作『Stalen from Strangers』は、アート・リンゼイやアルチュール・アッシュ、サンセヴェリーノ、エールの作品への参加で知られるリサ・パピヌーといったタイプの異なるヴォーカリストを迎え、ヴィニシウス・カントゥアリアのギターやブルガリアン・ヴォイスまでを加えてアンサンブルを構築。ニーノ・ロータ的な哀調メロディーの曲やNYテイストのナイーヴなボサノヴァ、ムーディーなジャズに、例えば水原弘が歌いそうな叙情的なバラードなどが無造作に詰め込まれた内容で、そこに浮上する壮大なスケールは、彼のクリエイティヴィティーの多面性が表れているといえよう。そして、何よりも強く感じるのは、過去と未来を混在させたような、ノスタルジックかつこれまで聴いたことのない三宅の甘美なメロディーメイクのセンスである。
『Stalen from Strangers』は、音楽的融合から匂い立つ絶妙ないかがわしさと、繊細なサウンド・プロダクションから滲み出すエロティシズム、そこに屈託のないユーモアが混じり合って生まれた実に不思議な作品だ。また、何よりも魅力的なのは、作家性と娯楽性を見事に両立させ、作品をポップに仕立て上げる彼の手腕である。三宅純が作り出す、イマジネーションをみるみるうちに増幅させ、リスナーの内側に映し出されるロード・ムーヴィー。そこに終わりはないのだ。
▼『Stolen from Strangers』に参加したアーティストのアルバムを紹介。