易々とコマーシャルな成功を収めた『3121』から約1年、早くも登場したプリンスのニュー・アルバム。〈殿下の宝刀〉を振りかざす“Guitar”に導かれた『Planet Earth』は壮大なコンセプトを提示する作品なのか? あるいは……

もう追い風しか吹いていない、という感じじゃないか。ユニバーサル経由で登場した昨年の傑作『3121』は、17年ぶりに全米チャート1位を獲得。映画「ハッピー・フィート」のサントラに素晴らしい“Song Of The Heart”を提供していたことも忘れがたい。今年に入ってからは、敬愛するジョニ・ミッチェルのトリビュート盤に楽曲がピックアップされたり、〈スーパーボウル〉のハーフタイム・ショウに登場して賞賛を浴びるなど、よくあるヴェテランのリヴァイヴァルやファンの懐古趣味といった文脈とは異なる意味で、単純にプリンスがいまも最前線の存在であり続けていることを認識させられた。他方では、ジャスティン・ティンバーレイクでもニーヨでもマルーン5でもミーカでもパトリック・ウルフでもディディでもファーギーでも誰でもいいが、プリンスからの影響を個々のアーティストが丸出しにする現象もすっかり顕在化している。で、この殿下景気がいつからV字回復に入ったのかを考えれば、アンドレ3000やファレルといったフォロワーの台頭もシンクロして久々に大ヒットを記録した『Musicology』(2004年)こそがターニング・ポイントだったと言えるだろう。そして、同作の成功を演出したコロムビアとふたたび手を結んで登場したのが、今回のニュー・アルバム『Planet Earth』である。
とはいえ、どんな風が吹こうとわざわざ神輿に担がれようとしないのがプリンスだ。しかも今回はここ数年でもっともシンプルというかコンパクトというか、思わせぶりで壮大なタイトルやジャケとは裏腹にLPサイズの尺で10曲をスッキリ聴かせる。昨年のブリット・アウォード授賞式で20年ぶりに共演した元レヴォリューションのウェンディ&リサが久々にレコーディングに参加しているのもファン的には嬉しいトピックだが、特に同窓会的な一席が設けられているわけでもない。ましてや80年代サウンドなんかやらんよ、といった感じ。ウィル・アイ・アムやポロウ・ダ・ドンがいくらあのスネアの音を模倣しようと、プリンスはいまのプリンスの音を理屈ヌキにカッコ良く鳴らすのみである。幕開けを飾る表題曲はお得意のクイーン風組曲ロックで、それに続く先行シングルの“Guitar”は文字どおり鋭いギターを前面に出したライヴ映え必至なロック・チューン。かの“Cinnamon Girl”風にドライヴしまくるアメリカン・ロック“The One U Wanna C”も最高! こう書くとロック寄りのようだが、ジャジーな“Somewhere Here On Earth”、軽いラップを聴かせるアーバンな“Mr. Goodnite”、パワフルなファンクの“Chelsea Rodgers”など楽曲個々の塗り分けは色とりどり。名曲“Starfish And Coffee”を彷彿とさせる小品“All The Midnights In The World”では独特の優しいポップネスも滲み出してくる。そして、トータルの聴き心地には、どことなく良い意味での手軽さがあるのだ。過去に縛られることも現在から目を背けることもなく、手クセめいたフレーズや展開すらも気負いなく織り交ぜて、思いのままに一筆書きしたような……つまりは天才が普通に作った普通に楽しくカッコ良いアルバムだってこと。そりゃ、無駄なセレモニー感とかお膳立ては要らんわな。今回も素晴らしいです。
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