次松大助が見つめる、とある町の日常──
「可笑しかったのが〈緑の小人〉がほんまに緑色してたことで、中くらいの太陽が潰れた後に中性子星っていう重たくて小さな塊が出来るねんけど、20世紀になって初めて発見された中性子星が、パルサーっていう規則正しく光とか電波のパルスを発してる星やって、天文学者はそれを宇宙人からの通信やと勘違いして、その宇宙人に〈緑の小人〉っていう名前まで付けてしまってん。で、その実在した〈緑の小人〉と、方向と速度が似たようなものやったから2年近く一緒にいた」。
コンビニから公園に戻ってきて、僕が矢沢永吉のTVコマーシャルを思い出しながらビールを開け、上戸彩と森田剛が付き合ってるらしいよ、とか宮崎あおいが結婚するか、してるからしいよ、という話をした後で、少年は、何万年も昔の恋人に逢いに行く為にひたすら加速する〈Raindrops〉という船での、頭が白むようなながいながい旅の話を続けました。
「緑の小人と別れた後、突然恐れていたことが起きてん。まったく不意に、気付いたらそれが真横に立ってた。俺の方を見ながら、でも俺じゃなくて俺をすり抜けた壁をじーっと見て立ってた。もともと、100年遡るのに20年かかるような要領の悪い方法やったから、それに気付いたらもう最後やっていうのは知ってたつもりやったけど、たぶん緑の小人と逢ってちょっと緩んでしまっててん。尋常じゃない、孤独・・。赤ん坊が指しゃぶりするのと一緒で、そこに本当に自分の手が存在するのかもわからんくなって、指先を自分でちょっと切って、痛みが脈打つ回数を一生懸命数えてた。でも孤独なんて、気付いた時点で部屋いっぱいに充満してるから、あとは遅かれ早かれ血の一滴にまで孤独が染み込んできた。今思ったら完全に発狂してたけど、それでも最後の力で左脳いっぱいに〈もういらん〉って叫んでん。もういらん、恋人とも逢えんくていいって。そんで出発する前に会った兄ちゃんにもう一回会って〈ただいま〉って言おうって思ってん。そのことだけ考えて必死になって、逃げて逃げて帰ってきた」。
――少し前からカラスが鳴き出したのでもうすぐ夜が明けます。家に帰ってからしばらく、少年の奇妙な旅の話を思い描き、信憑性うんぬんではなく、〈世の中にはいろんな人がおるなぁ〉とつくづく感心し、眠りにつきました。
今月のBGM
NINA SIMONE
『The Best Of The Colpix Years』
Blue Note
説明できないくらい世界一好きな人です。「ニーナ・シモン、チョットコワイ」という人も、これは怖くないので聴いて欲しいです。

PROFILE
次松大助
99年に大阪で結成されたオリジナル・スカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。現在バンドはアルバムを制作中で、7月28日には和歌山・BAGUSにて、バンドの自主レーベルが主催するイヴェント〈tentosen on the beach〉を行う。詳細は〈www.miceteeth.net〉をチェック!