都市型フェスティヴァルの代名詞と言えば、〈SUMMER SONIC〉。東京・大阪の2都市で同時開催され、各日・各会場の出演アーティストが総入れ替えでパフォーマンスを行う――そんな夢の2日間が、今年も約2週間後に接近中! ……というわけで、bounce.comでは〈サマソニ〉出演アーティストによる注目盤をセレクション。予習のお供にどうぞ。
8月11日(土)の東京会場に出演するアーティストの作品を紹介
1日目のヘッド・ライナーは、紅一点のファーギーが昨年ソロ・アルバムをリリースしたことも記憶に新しい、ブラック・アイド・ピーズ。さらに同日の〈MARINE STAGE〉には、アヴリル・ラヴィーン、グウェン・ステファニ、木村カエラと、男子のみならず女子も憧れずにはいられない女性シンガーが続々と登場。対して〈SONIC STAGE〉には、ジョニー・マーの加入で驚かされたモデスト・マウスや、昨年17年ぶりに再結成したダイナソーJrなどがお目見え。フロアが新旧ファンによる歓喜の拳で埋め尽くされる予感大です。そして、ボンヂ・ド・ホレ、デジタリズムなどのエレクトロ・ダンス・ロック勢が揃った〈DANCE STAGE〉も要注目でしょう!
THE BLACK EYED PEAS
『Monkey Business』A&M/ユニバーサル(2005)
ウィル・アイ・アムいわく〈ヒップホップ版ボリウッド〉という4作目。そういえばインドでも“Where Is The Love”や“Hey Mama”はよくかかってたなぁ……なんてのは余談としても、事実これらの世界的なヒットは彼らの活動をネクスト・レヴェルへと引き上げたわけで、今作もあらゆるお楽しみが凝縮されたワールド・スタンダードな仕上がりだ。冒頭の“Pump It”から映画「パルプ・フィクション」でお馴染みのディック・デイル“Misirlou”を敷いてみせ、その後もJB、ジョン・レジェンド、スティング、ジャスティン・ティンバーレイクなどがボリウッド的な豪華絢爛さで登場。ダンスホール・スタイルの乗りこなし方だって〈導入〉なんてレヴェルじゃない。彼らの脳内音楽地図をそのまま形にしたような強引さはあるが、それが持ち前のポップさと相まって類を見ない娯楽作品となっているのも嬉しい。あらゆる食いしん坊を喜ばせる満腹盤でしょう。(大石 始/bounce 2005年06月号掲載)
TRAVIS
『The Boy With No Name』Epic/ソニー(2007)
叙情系ロックの中でも強い求心力を持ったコールドプレイとは違い、みずからを〈インヴィジブル(=透明な)バンド〉と名乗るトラヴィスは、琴線を撫でまわすような普遍的なメロディーを奏でることに腐心してきた。そんな彼らの4年ぶりとなる新作は、純氷のように透き通ったサウンドに加えて、なんと音響系的意匠やダンス・ビートまでを導入。ベスト盤リリース後初のアルバムというだけあって、新章の幕開けに相応しい意欲作だ! (冨田明宏/bounce 2007年05月号掲載)
MAXIMO PARK
『Our Earthly Pleasures』Warp/BEAT(2007)
プラチナ・ディスクを獲得した前作から2年を経て、マキシモ・パークが新作をリリースした。NMEが名付けた〈ポエット・パンク〉なる音楽性もすでに忘却の彼方だし、彼らはもはやポスト・パンク・バンドでもなくなっている。エネルギーを無軌道に拡散させていた前作に比べると、まるで膨大な数の光ファイバーをまとめ上げた海底ケーブルのように、多彩な情報量と音楽性を収斂させて極太に一体化。タイトさとダイナミズムが素早くスイッチしながら突っ走る、奇抜な楽曲的進化を果たした。この変化は本作のプロデュースを担当したギル・ノートンの影響が強く反映されたもので、ピクシーズのようなオルタナ・サウンドと、ディーヴォやウルトラヴォックスなどのテクノ・ポップ的サウンドスケープの同居は恐ろしく斬新だ。贅肉を削ぎ落としたタイトさとネチっこいメロディーも好バランス。素晴らしい完成度を誇る意欲作である。(冨田明宏/bounce 2007年05月号掲載)
SUGAR RAY
『In The Pursuit Of Leisure』Atlantic(2003)
これで5枚目。前々作から大人路線(?)にシフト・チェンジしているクールなおバカ集団が、またしてもヤッてくれた。 80'sフレイヴァーもろ出しのサマー・ナンバー“Mr. Bartender(It's So Easy)”を中心に、ハイクォリティーなポップ・ソングが今回も満載。ジョー・ジャクソンのカヴァー“Is She Really Going Out With Him?”もバッチリ決めて、さらに“56 Hope Rd”ではあのシャギーが参加という豪華なオマケつき。(岩田真也/bounce 2003年06月号掲載)
GWEN STEFANI
『The Sweet Escape』Interscope/ユニバーサル(2007)
出産直後はホルモンのバランスが不安定って言うけれど……ここまでハッチャけていいものなのか、ねえ? グウェン姐さん! ファレルが絡んだファースト・シングル“Wind It Up”でのヨーデル唱法にもブッ飛んだけど、他にもあちこちで錯乱ヴェクトルが飛び交いまくり。思わず口をあんぐり。基本的には大ヒットしたソロ・デビュー作『Love. Angel. Music. Baby.』の路線を踏襲しているのだが、ここでのキモはダンス・ナンバーよりも80'sを彷彿とさせるエレクトロ・レトロ・ポップ。キーンのティム・ライス・オクスリーのペンによる“Early Winter”やデペッシュ・モードへの畏敬の念を感じさせる“Wonderful Life”など、ちょっぴり引いた魅力のほうが勝っている。前作が〈ディズニーランド〉だったとすれば、今作は〈としまえん〉あたり? 〈スウィートなエスケイプ〉の隙間から綻びた現実が見え隠れする。(村上ひさし/bounce 2007年03月号掲載 )
FALL OUT BOY
『Infinity On High』Island/ユニバーサル(2007)
前作『From Under The Cork Tree』が300万枚を超えるヒットを記録して、グラミー賞新人部門にノミネート――この2年の間に彼らを取り巻く状況は大きく変化した。メジャー2枚目となる本作は、ゲストにジェイ・Z、プロデューサーにベイビーフェイスの名がクレジットされていることから、〈脱パンク!?〉〈R&B化!?〉と勘ぐってしまうが、いざフタを開けてみるとどこをどう切ってもフォール・アウト・ボーイにしか聴こえない安心の仕上がりだ。ダンサブルなビートや壮大なバラードなどの新境地を見せつつも、彼らの最大の武器であるポジティヴなメロディーは、良い意味でまったく変化していない。成功に溺れることなく地に足の着いた活動を続け、そのなかで新しいことにチャレンジする自信も手に入れた……そんな彼らだからこそ作り得た100%フォール・アウト・ボーイ印のハイブリッド・ポップ・ミュージック! 胸のすくような快心作だ。(粟野竜二/bounce 2007年03月号掲載)
MODEST MOUSE
『We Were Dead Before The Ship Even Sank』Epic/ソニー(2007)
まさかのジョニー・マー加入を経て発表された新作。といっても、核心は何も変わらない純正モデスト・サウンドが炸裂している。つんのめるようなリズムと胸を掻きむしるエモーショナルなギター。一瞬一瞬に感情の爆発があり、メジャー3作目にして、いまだに手放しで自転車を全力疾走するような危なっかしさも最高だ。最近じわ~っと滲みでるようになった哀愁も織り込んで、歌って泣かせるロックンロール・ショウ。(村尾泰郎/bounce 2007年06月号掲載)
DINOSAUR JR.
『Beyond』PIAS/HOSTESS(2007)
J・マスシス、ルー・バーロウ、マーフというオリジナル・メンバーでの再結成を昨年17年ぶりに果たしたダイナソーJrが、ついに新作をリリースした。これが聴いてビックリの完成度! Jのダルダルな鼻歌も、手癖全開のギター・ソロも、どこを切っても〈ダイナソー節〉が全開なんです。〈バンドのケミストリー〉ってこういうことなんだ! かの『Bug』にも劣らない名作を作り上げようとは、誰が想像できたでしょう。(田中幹也/bounce 2007年05月号掲載)
KLAXONS
『Myths Of The Near Future』Polydor/ユニバーサル(2007)
〈近未来の神話〉・・この作品を表す言葉として何とピッタリなタイトルだろう! そう、これはまさに神話誕生の瞬間だ。みずからの音を〈ニュー・レイヴ〉と名付け、この雑食化した電子の世界に舞い降りた神たち。その実像は、近所に住んでいそうなチョッピリ冴えない感じの兄ちゃん3人組だった。画一化されたポスト・パンク・シーンに辟易していたロンドンで産声を上げたクラクソンズは、結成1年あまりでこの強烈なデビュー・アルバムを作り出した。ここにあるのはインダストリアル、ハードコア、ガレージなどのサウンドをミックスしてグチャグチャに撹拌した後、蛍光色の突き刺さるリズムをふんだんに振りかけた新時代のポップネス。レイヴ・キッズは取り憑かれたかのように踊り狂い、ロック・ファンは無我夢中で拳を突き上げる。パンクの DIY精神とトランスの昂揚感をタップリ身に纏った今作が、世界を狂騒の渦に巻き込む! (柴田かずえ/bounce 2007年03月号掲載)
LCD SOUNDSYSTEM
『Sound Of Silver』DFA/東芝EMI(2007)
リミキサーとしても人気のDFAの片割れ、ジェイムス・マーフィーによるプロジェクトの約 2年ぶりとなる2作目。パンクとダンス・ミュージックを融合させた、ディスコ・パンク隆盛の張本人が、ダンスとロックの親密な関係が語られるこの時期にいったいどういうアルバムを作り上げたのか? まずそこは気になるところ。!!!のベース、元セイバーズ・オブ・パラダイスのメンバーといったライヴ・メンバーなどと共に農場で作り上げたという今作は、乾いた音の質感、クールでファンキーなグルーヴ、そしてアルバム全体に漂う脱力感からもニューウェイヴ的な匂いを感じるが、全体を眺めてみると見事なまでにタイトでポップな一枚に仕上がっていることに気付く。前作、そして現状とのリンクも意識していないであろうこの感覚は、斜に構えた云々を越えての痛快さも感じる。そしてそれを裏から支えているのが真のパンク精神だということもお忘れなく。(池田義昭/bounce 2007年04月号掲載)
DIGITALISM
『Idealism』Kitsune/Virgin/東芝EMI(2007)
世界中のさまざまな文脈で大ヒットしたフロア・アンセム“Zdarlight”を引っ提げて、ハンブルグ出身のコンビがいよいよアルバム・デビュー! キツネ産らしいロッキンな耳触りと泣きのメロディーが絡み合う様子は、反則スレスレなまでに殺傷力抜群! そんな直球のエレクトロ・ハウス路線に留まらず、アルバムの構成も存外に多様で、ポテンシャルも十分に感じさせます。これであっさりブレイクしちゃうでしょう! (狛犬/bounce 2007年05月号掲載)
BONDE DO ROLE
『With Lasers』Mad Decent/Domino/HOSTESS(2007)
M.I.A.のプロデューサーでもあるディプロに見い出されたブラジルはクリチバ出身の3人組、ボンジ・ド・ホレ。猥雑かつ野蛮なイメージで捉えられることの多いブラジル産ストリート発のダンス・ミュージック=バイリ・ファンキをよりポップに、かつ脱力気味にやっているのが、この2MC&1DJによる〈バンド〉の特徴だ。この初のアルバムは、既成の様式も形式も無視して、ヒップホップもダンスもメタルもアレもコレもいっしょくたに(器用とは言いがたいが……)採り入れながら生まれるノリに、ヤケクソ気味の勢いとポルトガル語でわめき散らすラップのテキトーさが加わって、一定のジャンルには収まらない内容になった。本編は全12曲で30分弱。この潔さ、そして全体のラフさが、彼らのタフさを生む要因でもある。(池田義昭/bounce 2007年07月号掲載)
BLUE KING BROWN
『Stand Up』Roots Level/Village Again(2006)
デビューEPが話題となって〈Green Room〉で来日も果たしたオーストラリア発の5人組が、待望のフル・アルバムを完成。レゲエを軸にラテンやファンクの要素を採り入れた楽曲と、女性ヴォーカルによるエネルギッシュな歌でもって、あらゆるリスナー層の心を掴むであろう快作に仕上がっている。勢いよくまくし立てるダンサブルな曲があるかと思えば、しっとりとしたスロウも用意されていて、何度聴いても飽きさせません! (まちだゆうき/bounce 2007年01-02月号掲載)