次松大助が見つめる、とある町の日常──
昼のあいだに子供たちが手折った握り勝手のよい枝で、土を掘ったり埋めたりしながら少年は熱心に話を続けました。
「……お金の都合で。古くさいねんけど〈スウィング・バイ〉っていう、星の引力をかすめながらどんどん加速していく方法しかなかってん。だから秒速11.2キロっていう必要ぎりぎりの速さで出て、すごい時間をかけてゆっくり加速していった」。
素粒子の核の振動を止めて質量を無くすことでほぼ無限に加速できるようになったとしても、自力での加速には限度があり、それなりの時間と距離(滑走路)が必要らしい。ただ、それが少年の言うタイムシップ(タイムマシン)とどういう関係があるのか、まだわかりませんでした。
「〈メビウスの輪〉ってあるやんか。紙きれで輪っか作るときに片方の端を半回転ひねってからくっつけるやつ。あれをもし、平たくしたゴムホースとかマカロニで作ったとしたら、まず表と裏、あと内側の上と下、あと右左、同じ断面でも違う場所が出来るけど、一周したら繋がってる。仮にゴムホースの表面のギザギザの、ギザのひとつに今、俺がおるとして、輪っか作るときに、そのギザひとつ分だけひねると、俺が一周したら隣のギザに辿り着いてて、もう一周したら、さらに隣のギザを進んでるねん。実際はもう少し複雑やねんけど〈時間〉っていうのを光の速さで進む〈動く歩道〉やとして、このギザのひとつを滑ってるとしたら、抗うには光よりも速く歩かなあかんねん。そしたらたまにヒョイって隣のギザに移れるタイミングも出てくる。そのためにとにかく速度を上げる必要があってん」。
少年の話をより集中して聴くために、話を一時中断してもらい、「酒が切れたから。コンビニ行けへん? ゆっくり喋ろう」と言って2人でさっきのコンビニへ戻りました。ビールを2本と出来合いの焼酎の水割を2本カゴに入れ、そういえばまだ少年の年齢的に売ってもらえないのだろうと思い、気を利かせたつもりで、「エロ本買ったろっか?」と言うと、少年は少し黙ってから「いらん」と答え、そのあと初めて楽しそうに笑いました。
今月のBGM
GEORGE GERSHWIN
『The Ultimate Gershwin』
Pulse
ガーシュウィン本人が弾いてるピアノ曲もあって、「あー、これこういう風に弾くんや」って初めて意味がわかった曲もありました。あと、私信ですが携帯を久しぶりに失くしました。
PROFILE
次松大助
99年に大阪で結成されたオリジナル・スカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。バンドは現在レコーディング中で、7月14日には兵庫・六甲カンツリーハウス内特設会場で行われる〈ROKKO SUN MUSIC 07〉に出演予定。その他詳細は〈www.miceteeth.net〉にて。