246をライ麦パンをかじりながら車で走る。通りすがりに、看板のような何かを手にした人を見たような気になる。バックミラーで確認すると、ヒッチハイカーが行き先を大きく書いて立っていた。ヒッチハイクをやっていたころ、たくさんの元ヒッチハイカーに乗せてもらったことを思い出し、気づいてあげられなかったのを悔やんだ。
二日後、出来上がったばかりの歌詞と曲を抱えて車に乗り込み、弾き語りのツアーに出発した。旅の道連れは、京都の音楽家小栗栖君と浜松の友人moto君だ。今回の目的は、浜松、弘前、鎌倉の三箇所でライヴを行い、盛岡、弘前、青森、東逗子に宿泊しつつ周辺を散策しながら写真を撮り、旅で出会った情景やこころの動きを歌詞に書き加えてゆくというものだった。
車輪は廻り始める。
公演は浜松の美容院「enn」から始まり、同じく浜松の神久呂神社に立つ樹齢八百年の御神木に挨拶してから、小岩井牧場、弘前さくらまつり、棟方志功記念館、青森県立美術館を訪れ、弘前のカフェ「z i lch」にて二公演目を行い、岩木山神社にお邪魔させて貰ってから、12時間の車旅を経て最終地点の鎌倉「Cafe
GOATEE」に転がり込んだ。
鎌倉では、円覚寺に眠る小津安二郎の墓参りに出かけた。
山あいにひっそりと居る小津さんの墓。正面に大きく掘られた「無」という文字に、ふと雲の隙間から光が当たりはじめた。その詩風景を目にした時、シャッターを五回押した。
全ての公演を無事に終えて多摩にもどる途中、あるT字路にさしかかった。「そこを右に行こう……」「……いや、混んでるかもしれないな、左 !」。いつも通らない道を進むとmoto君が「武相荘だ !」と声をあげる。こうしてツアーの締めくくり、旧白州邸にお邪魔した。
日本の巨匠と偉人に挨拶周りをする旅。
わたしの精神の足腰を強くしてくれた旅。
PROFILE
青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加する他、KAMA AINAとしても活動中。7月にはKA-MA AINAでドイツやデンマーク、スウェーデン、スペインなどを回るヨーロッパ・ツアーを予定している。