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第151回 ─ MICHAEL BRECKER

連載
NEW OPUSコラム
公開
2007/06/07   22:00
ソース
『bounce』 287号(2007/5/25)
テキスト
文/本橋 卓

現代最高のサックス奏者が輝かしいキャリアの最後に届けてくれた、熱いラスト・アルバム!


 どうしても感じてしまうのは、今回リリースされた『Pilgrimage』が遺作だということの現実味のなさ。初めてアルバム全曲をオリジナルで固め、パット・メセニー、ジャック・ディジョネット、ハービー・ハンコックといった親交の深いジャズメンと繰り広げるフレッシュな熱演を、彼の死という事実と結び付けようとするのはあまりに困難を極める行為だ。コールマン・ホーキンス、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーンに続くジャズ・サックスの巨星、つまりはサックスという楽器を知り尽くした圧倒的にテクニカルな演奏家、またはポップスにおけるホーン・プレイヤーの重要な役割を見い出して定着させたスタジオ・ミュージシャンとして、ここまで音楽界に大きく貢献した人物は彼・・マイケル・ブレッカーをおいて他にいないだろう。自身のリーダー作や、実兄ランディとのブレッカー・ブラザーズ名義での作品を筆頭に、マイク・マイニエリ、クラウス・オガーマン、深町純、チック・コリア、マッコイ・タイナー、チャールズ・ミンガスといったジャズ~フュージョンでの仕事、またJBからパーラメント、チャカ・カーンといったファンク~ソウル系や、フランク・ザッパ、トッド・ラングレン、エアロスミスといったロック勢、はたまたウィリー・ネルソンやフランク・シナトラといった大御所の作品にも顔を出しつつ、古内東子やSMAPのアルバムでも重用された彼の膨大な録音数はなんと800枚に上る。が、彼の偉大さはそのような数字的記録よりも、むしろそれら多種多様な作品それぞれの状況に応じて(ムーディーなものからハードなものまで)的確に吹き分けたその職人的プレイにある。たった数小節でサウンド全体を大きく展開させる、その名演の数々を真摯な音楽ファンならぜひR.I.P.代わりに聴き直してみたいところだ。