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第17回 ─ 春昼後刻

連載
踏 切 次 第
公開
2007/05/24   19:00
更新
2007/11/08   17:29
ソース
『bounce』 286号(2007/4/25)
テキスト
文/次松 大助

次松大助が見つめる、とある町の日常──

 川向こうのセコム坂(各邸にセコムのシールが貼られている超高級住宅地)を上り、ようやく訪れた春の陽気に瞼をかろうじて開けながら歩き、冬のあいだ葉を落とした枝ばかりで閑散とした様子がベランダから見えていた古墳(大和朝廷の古墳ではなく、五世紀前半に造られた、豪族の首長の墓ではないかと思われる。堀の池が無く、少し小さめ)へ辿り着くと、楠や松の枝が新しい緑色をつけていたので、自分の不審な服装や手に持ったお酒に気を配りながらも、少しのあいだ見惚れていました。

 12枚しかないカードのうち1枚を使ってしまったような素晴らしい天気だったので、今日はもう少し歩いてみようと思い、家の反対側へ歩いて行くと、途中老人が4、5人、軒先に丸イスを出して花見を楽しんでいました。

 横目に通り過ぎてしばらくすると、今まで知らなかったことにびっくりするくらい、割と大きめの池がありました。この辺りに住んでいる延べ年数は3~4年ですが、それは大人になってからの話なので、近所のことは全然知らなかったのです。池のほとりには桜が満開になっており、本当に綺麗な景色だったので、奥さんを呼び出そうと思い、家に居た奥さんに電話を掛けて、「あの、ごめん、あれ、桜、池が、桜、あって、あった、来ーへん?」という片言の日本語(現在バンドのレコーディング中で、レコーディング中は毎回恥ずかしい程のどもり癖が付く)で説明して来てもらい、ベビーカーを引きながら池の周囲を散歩しました。池の中央には横断するように桜並木の橋の道が架かっており、近くの小学生の作った〈21世紀、○○池、桜の通り抜け〉と描かれた看板が出ていました。「21世紀」という単語は不必要だったんじゃないか?と思いましたが、おそらくは一年のうちでその池が一番綺麗に見える一日に、その池と出会った偶然を嬉しく思いました。

 たくさんのものを見たらいい、綺麗なものも、汚いものも。3ヶ月の子供にそう思いながら、「あ、一瞬たばこあれ、くる、うん」と言ってたばこを買って家に帰りました。

今月のBGM


CLEO BROWN & ROSE MURPHY
『Two Happy Piano Girls』
 
MCA
奥さんはどっちかというとローズ・マーフィのほうが好きで、僕はどっちかというとクリーオ・ブラウンのほうが好きで、そういうのはなんかよくわかる。

PROFILE

次松大助
99年に大阪で結成されたオリジナル・スカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。バンドの自主レーベルによるイヴェント〈tentosen presents↑UP and DOWN↓〉を5月18日に東京・代官山のUNITにて、25日には大阪・梅田のShangri-Laにて開催する予定。