次松大助が見つめる、とある町の日常──
おせち料理が嫌いです。単品ではそれぞれ嫌いではないですが、おせち料理として重箱や何かに集合すると、とたんに嫌いというか面倒臭くなるようです。子供の頃、正月というと一日中父が家にいて、それだけでずっとソワソワしていたので、食事はなるべく簡潔に済ませたいと思うのに、一品一品が細かく、味のダイナミクスも繊細な上に翌日また続きが出てくるので、子供ながらにすっかり辟易してしまっていました。
しかし、お正月の雰囲気自体はすごく好きです。空気が澄んでいて、張り詰めたものがなく適度に緩んでいて、一休さんの〈貫く棒の如きもの〉という格言も個人的には〈年中お正月ならいいかもね〉というパラレルな解釈をしてみる次第です。ただし、凧上げは嫌いです。
・・中学2年生の2学期に家庭の事情により転校したのですが、転校して間もなく凧上げ大会が行われました。みんな美術の時間か何かに自分で作って絵を描いた凧をそれぞれ持ち寄り、大阪城公園に行って飛ばす、というものでしたが、僕は凧を作っていなかったので先生にとりあえず無色透明のビニール凧とマジックペンをもらい、何でも描いていいと言うので左の翼に○と描き、右に×と描きました。いよいよ上げてみると、その○と×は風に乗って他のみんなよりずっと高く上がり、素晴らしい高さをキープしたまま、直後、木の一番高いところに引っかかってしまいました。糸をひっぱって一生懸命取ろうとするのですが、取ろうとすればするほど、なおさらに絡まっていきます。心優しい女子が、「先生ー、つげまつ君の凧、木ぃにひっかかってんてー」と言って先生を呼び、僕は〈つぎまつです〉と思いながら先生の助けを借りるのですが、凧は一向に取れる気配もなく、僕は「もういいです、僕はむこうでお茶飲んどくから」と言って目立たない場所にキープしたビニール・シートの上で水筒のお茶を飲んでいました。30分もしないうちに水筒は空っぽになり、しばらくすると喉が渇いたので、こっそりジュースを買いに行こうとすると、祭りのときの屋台が出ていてジュースも売っていたので、「これ下さい」と言うとテキ屋のおっさんが「はい、ポカリ500円」と言うので、僕は〈馬鹿にしやがって〉と思い500円払ってポカリを一気に飲み干して戻り、そのままみんなが上げている凧を一日中ボーッと見て凍えていました。
帰り道には雨も降り出して、体の芯から冷えた僕は〈何やねんこれ、何やねんこれ〉と繰り返し呟きながら家に帰ったのでした。
今月のBGM
HAROLD McKINNEY
『Voices And Rhythms Of The Creative Profile』
Tribe
昨年の僕の中のMVPです。自分的に、聴いたタイミングもすごく良かったかと思います。もっと聴きたいのに、リーダー作はこれ一枚だそうで、残念です。
PROFILE
次松大助
99年に大阪で結成されたオリジナル・スカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。3月2日には東京・UNITで開催される〈Root&United Vol.7〉に、4月21日には愛知・APOLLO THE-ATERでの〈SHINSAKAE MUSIC CIRCUIT 07〉に出演。詳細は〈www.miceteeth.net〉にて。