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第4回 ─ セルジュ・ゲンスブールの〈5分間〉

連載
Bar YAMAGA
公開
2007/03/15   20:00
更新
2007/03/15   20:48
ソース
『bounce』 284号(2007/2/25)
テキスト
文/武藤 昭平

武藤昭平による、〈憧れのアーティストたちと酒場でいっしょに酒を飲んだら?〉――という深夜の妄想話 

4:00 am  セルジュ・ゲンスブールの〈5分間〉

 深夜4時。だいぶ深い時間帯になってきた。この人が店にやってきて、キャバ嬢を連れてたフランク・シナトラが帰ってしまうくらい、独特の空気を持つ男――セルジュ・ゲンスブール。独り言を呟いているようだが、突然俺に話しかけたりもする。何でも戸川昌子さんに呼ばれて〈青い部屋〉という場所で歌を歌った帰りらしい。

「やはり、いまでもジェーン(・バーキン)のことは大好きなんだ。あ、これは娘のシャルロット(・ゲンスブール)には内緒にな、ムトウ君」「えっ! 俺に話しかけてたんすか?」でも、俺の声には耳を傾けずに相変わらず独り言を続ける。

 そして、「ムトウ君。君はまだ悩みながら曲を作ってるのかい?」「はい。やっぱり悩みますよ」「ムトウ君、悩んだ曲より5分で出来た曲のほうがヒットするんだよ。世の中そんなものだ」。

 さらにセルジュは続ける、「私のアルバムで〈くたばれキャベツ野郎〉を知ってるかい? あれは悩んだ。実験を繰り返し、フランスに初めてレゲエを持ち込んだりしたが大して売れなかった。だが、次の作品はスライ&ロビーといっしょにゲップとオナラで作ったようなアルバムなのに大ヒットしたんだよ。ヴァネッサ(・パラディ)のアルバムをプロデュースした時は悩んだからあまり売れなかったが、その次の彼女のアルバムでレニー・クラヴィッツ君が手掛けた作品は大ヒットしただろ? レニー君は多分1曲に5分以上かけてないと思う」「いやぁ、そんなことはないと思いますよ」。

 そんな会話の後、セルジュは帰ろうと勘定を始めた。「あ、ムトウ君。話に付き合ってくれてありがとう。今度お礼にジタン(フランス煙草)を1グロス送っとくよ。事務所宛でいいかね?」「そんなに吸えないっすよぉ」。

 セルジュはいったんトイレに向かった。その時ジョー・ストラマーが店に入ってきた。「よう、ショーヘイ。ここにいたか。相変わらず悩んで曲作ってるか? 情熱を注いで時間をかけてこそ名曲は生まれるからな」。すると今度はトイレから出てきたセルジュが、「おやすみムトウ君。曲は5分で作れよ。あっ、ここにいたことはシャルロットには内緒にな」と店を出た。すかざずジョーが「あれ誰だっけ? 5分って何のことだ?」「ジョーさん、いいから飲みましょう」。

……武藤昭平、あくまでも妄想の話。

深夜4時の妄想盤

SERGE GAINSBOURG 『L'Homme A Tete De Chou』 Universal France(1976)
ミュージカル仕立ての作品で、邦題は〈くたばれキャベツ野郎〉。彼のアルバムの中でもシュールな一枚と言われているが、ジャマイカ録音された次作を予兆するレゲエ・ナンバーや、パンク・シーンともリンクする曲を収録するなど、興味深い一枚。

VANESSA PARADIS 『Vanessa Paradis』 Polydor(1992)
永遠のフレンチ・ロリータが初めて全英詞で挑んだ大ヒット・アルバムで、プロデュースは当時の恋人でもあったレニー・クラヴィッツが担当している。なお、セルジュさんが手掛けた90年作も、それまでになかった彼女の色っぽい魅力が巧く引き出されていてグッドですよ!

PROFILE

武藤昭平
ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気を博す伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。最新作『ブラック・マジック・ブードゥー・カフェ』(エピック)も大好評。3月27日(火)には東京・LIQUIDROOMにてバンド主催のイヴェント〈LET'S GET LOST Vol.3〉を開催(ゲストはThe Birthday)。その他のスケジュールは、〈www.katteni-shiyagare.com〉をいますぐチェック!