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第4回 ─ ハリー細野の世界音楽クルージング

連載
Ho!楽探検 タイムマシーン
公開
2007/03/08   14:00
更新
2007/03/08   21:02
ソース
『bounce』 284号(2007/2/25)
テキスト
文/ダイサク・ジョビン

日本のポップ・ミュージョックの歴史に残された偉大なる足跡を探してタ~イムスリップ!!

 75年、歌謡曲やフォーク~ニューミュージックが主流だったシーンに突如登場した『トロピカル・ダンディー』。そのとっても奇妙で風変わりな、でも同時に妖しくも魅惑的で甘美な音楽が詰まったアルバムを作ったのは、日本のロックの礎を築いたはっぴいえんど解散後、プロデューサー/アレンジャー/セッション・ミュージシャン集団であるティン・パン・アレーを率いていた細野晴臣。はっぴいえんど時代から、USのロックやソウル/ファンクを消化したサウンドをほぼ同時進行的に日本のポップ・ミュージック・シーンにもたらしていた細野だったが、自身の音楽的アイデンティティーを模索する時期でもあった。そんな時、友人からの助言によって〈好きなことをやればいいんだ!〉ということに気付かされてすっかりナチュラル・ハイ状態になった細野は、〈ハリー細野という日系人が豪華客船で世界各地の港町をクルーズする〉という世界観を、1930年代のハリウッド映画音楽的手法によってトロピカルかつチャイニーズ・エレガンスなサウンドで表現する、というコンセプトを得る。幼き頃にラジオで聴いたマーティン・デニーのエキゾティック・サウンドやスリー・サンズなどの夢心地なホーム・ミュージック、ハリウッドで活躍したブラジルのカルメン・ミランダによるサンバ、クラブ二世オーケストラなど50年代の日系ハワイ人による日本、ラテン、ハワイが混ざり合った音楽。さらにヴァン・ダイク・パークスがノスタルジックに再構築した古いカリプソやアメリカン・ルーツ・ミュージック、ドクター・ジョンが甦らせた40~50年代のリズム&ブルース、ロックンロール、ラテンなどがゴチャ混ぜになったニューオーリンズ音楽、ステイプル・シンガーズなどのバックを務めたマッスル・ショールズのリズム・セクションによるゴスペル~ソウルとスカのリズムとの融合、スライ・ストーンによる大胆なリズム・ボックス使用法、日本に返還されたばかりの沖縄から聴こえてきた喜納昌吉の“ハイサイおじさん”、さらにルンバ、ビギンといったカリビアン・リズムや摩訶不思議な中華趣味、ドゥーワップが持っていたユーモア加減も入れちゃおう!!……そんな楽園音楽の数々を自身の快感原則に忠実なまま混ぜ合わせた結果、世界に類を見ないユニークな音楽が誕生したのだった。

  翌年、さらにカラフルでごった煮状態となった『泰安洋行』を発表。78年にもトロピカル路線を継承した『はらいそ』を発表するが、すでに細野の頭の中には〈マーティン・デニーの曲をコンピュータで演奏する〉という次なるコンセプトが浮かんでいた――それを具現化するため、細野はYMOを結成するのだった。