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第15回 ─ コバルト・ブルーの世界

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2007/02/22   20:00
更新
2007/02/22   21:12
ソース
『bounce』 283号(2006/12/25)
テキスト
文/青柳 拓次

 20歳のころ、イギリスで友達になったトルコ人は「徴兵にとられたくないから、ぼくはこのリーズで奥さんを見つけたい」と言った。同じクラスのフランス人は〈イギリスにいれば徴兵を逃れられる〉と思っていたら、政府関係者が追いかけてきたらしい。それは、まだフランスに徴兵制があった92年のはなし。

 NHK-BSで、アメリカの貧困層の黒人少年が、大学に進学する為の資金を得るため入隊を決意してゆくドキュメントをみる。その番組では、町や高校でアメリカ軍のリクルーターが活動をしている様子も映し出されている。財政の困難な学校は、軍のリクルーターを受け入れると資金援助を受けられるという。

 同じくBSでみた、フランスのテレビ局が制作したドキュメントに戦慄する。徴兵で軍に入隊したイスラエルの若者たちが、夜半にレバノンのヒズボラが潜む地帯に戦車で向かってゆく。そして夜が明けると、20歳足らずの衛生兵たちが襲撃されてしまう。

 わたしには、イスラエルの若い親戚がいる。いま停戦をしているとはいえ、いつ本人の意向にかかわらず、彼らは戦線に駆り出されるかわからない。

 わたしは戦争というものを知らない。

 わたしには戦争というものが伝わっている。

「ラウンド・アバウト」という伝説のカルト映画がある。音楽は名匠ジョン・バリーが務め、世界はアボリジニの伝統楽器ディジリドゥーにはじめて出会うことになる。

 ある事件をきっかけに、白人の女学生とその弟が、オーストラリアの荒野に迷ってしまう。そこでアボリジニの青年と出会い、徐々に親しくなる。食料が底をつくと、弟と青年が狩りに出かける。そのあいだ、女学生は砂漠の泉で裸になって水浴びをする。大自然の美しい日々は、かれらが町に辿りついたことで終わりを告げる。その後、女学生は普通の結婚をし主婦となり、ふとあの日々をフラッシュバックさせる。

 世界はブルースに満ちていて、同時に花が咲き誇っている。その世界で〈憲法 条〉は輝いている。砂漠の泉で水浴びしている裸の女性のように無防備でまぶしい。

 輝いているものを〈輝いている〉と伝えるのが私のしごと。

PROFILE

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加する他、KAMA AINAとしても活動している。デンマークのクリエイター・チーム、UFEX制作によるプロモ・クリップ“Glasgow Sky”も〈You Tube〉などで公開中。