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第3回 ─ ビリー・ホリデイとフランクシナトラ

連載
Bar YAMAGA
公開
2007/01/18   15:00
更新
2007/03/15   16:37
ソース
『bounce』 283号(2006/12/25)
テキスト
文/武藤 昭平

武藤昭平による、〈憧れのアーティストたちと酒場でいっしょに酒を飲んだら?〉――という深夜の妄想話 

3:00am  ビリー・ホリデイとフランク・シナトラ

 深夜3時。静かになった店内に、ひどく酒臭いオバさんが乱入してきた。「あら! 昭平ちゃんじゃなーい。久しぶりね。お隣り空いてるの? ちょっと失礼。マスター、日本酒ちょうだい。ああ、そうそう(チャーリー・)パーカー君見なかった?」──ビリー・ホリデイである。よく喋る。

「ああ、さっきまで居たみたいですけど、もう帰りましたよ」「まさかアタシを避けてんじゃないでしょうね。イヤになっちゃうわー。そいえば昭平ちゃんさ、アタシのアルバムで何が好きって言ってたっけ?」
「〈奇妙な果実〉ですよ。前にも言ったと思うんですが」「〈奇妙な果実〉は最高よね。でもアタシはあのジャケットが嫌いなの。あの写真、アタシが大酒飲んでカラオケ歌ってる時に撮ったんだろって、みんなが言うのよ。失礼しちゃうわね。昭平ちゃんはそんなこと言わないわよね」「もちろん言わないっすよ」「アラ優しいじゃない。今夜アタシと遊ぶ?」「いやぁぁぁ、勘弁してくださいよぉ」。

 この酔っ払ったオバさんを一人で相手をするのは大変だ。そんな時、入り口から渋い男の声がした。「何でも好きなものを飲んでいいよ。俺のおごりさ」「キャー!」──新宿のキャバクラ嬢を3~4人引き連れたフランク・シナトラだ。するとビリーが、「フランク、またそんな遊びやってんの!」「あっ! やっべえ」「フランクちょっとこっち来なさい。大体アンタ女性をなんだと思ってるの?」「いやいや、君の男性にまつわる辛い過去は知ってるが、それとこれとは別の話だろ?」「うう、だから男って嫌い……うっうっ」、ビリー・ホリデイが泣き出した。そしてさらに続ける。「ねぇ、アンタとアタシ、結構同じ曲でヒットを飛ばしてるじゃない? “All Of Me”とか。でもあなたは大金持ち。アタシは借金まみれ。そりゃあね、大麻や薬に手を出した自分が悪いってことはわかってる。でもね、男が、男が……うっうっうっ」。

 もう、この店内はすっかりシラケている。そして、シナトラが俺に耳打ちする。「武藤の連れだろ? 何とかしてくれよ!」「いや、違いますって」。

 その時、突然ビリーが立ち上がり、「マスター、お勘定してちょうだい。泣いたらすっきりしちゃった。じゃ、またね! フランク、昭平ちゃん!」「……」。

……武藤昭平、あくまでも妄想の話。

深夜3時の妄想盤

BILLIE HOLIDAY 『Strange Fruit』 Commodore/Polygram 
昭平ちゃんもお気に入りの一枚で、邦題は〈奇妙な果実〉。差別問題を淡々と歌った表題曲は、39年に物議を醸しながらも特大ヒットを記録。なお、本作収録曲を録音した40年代半ば頃からビリーは麻薬に手を染めはじめ、さまざまな男性/女性と浮名を流すようになる。

FRANK SINATRA 『Swing Easy』 Capitol(1953)
タイトルが示しているとおりキャリア史上もっともスウィンギーでゴキゲンな作品で、会話に登場した“All Of Me”もここに収録。本作リリース時はちょうどアイドル歌手から脱却した時期にあたり、ジャズ心溢れる歌い回しがなんともダンディーな雰囲気を醸し出している。

PROFILE

武藤昭平
ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気を集める伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。最新作『ブラック・マジック・ブードゥー・カフェ』(エピック)も好評を博するなか、12月29日には千葉・幕張メッセで開催される〈COUNT DOWN JAPAN 06/07〉へも出演決定! そのほかの最新ニュースは、〈www.katteni-shiyagare.com〉をいますぐチェック!!