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第4回 ─ それで自由(ディラン)になったのかい

連載
ディラン・ディラン
公開
2006/12/14   20:00
ソース
『bounce』 282号(2006/11/25)
テキスト
文/ディラン2

ディラン・フリークの2人が繰り広げる、〈ディラン愛〉に満ち溢れた珍トーク連載。今回は、日本の音楽シーンにおけるディランの系譜を語り尽くすぞ!!


 終電間際、JR新宿駅の中央線のホームに鳴り響くけたたましい発車チャイムがチャイムズ・オブ・フリーダム(※1)に聴こえず、最近、生活のなかの〈ディラン度〉が低すぎると感じた2人は、自由を求め、山間にある名も知れぬ寂れた駅で降りると、露天温泉付きの健康ランドに辿り着いたのだった――。

シロー・ディラン(以下SD)「いやあ、やっぱ大自然のなかフルチンで風に吹かれてると自由を感じるよなあ。ところでお前、タワレコ袋持ってたけど何買ったの?」

ダイサク・ディラン(以下DD)「J・ディラ。ビートがスゲエんだよ」

SD「J=日本の、ディラン。で、ビート……ってことは、ああ、友部さん(※2)か」

DD「70年前後のフォーク・シーンで〈日本のボブ・ディラン〉って呼ばれてた人は多いけど、最初は岡林(※3)かなあ」

SD「岡林は見た目からソックリだもんな」

DD「(井上)陽水のボサボサ頭は『Blonde On Blonde』のディランまんまだし」

SD「拓郎(※4)の髪型もだな」

DD「友部さんがディランの正統な継承者だとすれば、キヨシロー(※5)はトリックスター的な、過激なほうの継承者だな」

SD「拓郎はディランを追っかけ続けて、あるとき〈俺はディランじゃない〉って気付いて吹っ切れた。ディランのように自由や解放を歌いたいって思ってた人たちが、じつはディランという存在に呪縛されてた」

DD「たどり着いたらいつも雨降り、じゃなくてディランがそこにいて、〈本当の自由って何だ?〉〈本当のお前って誰だ?〉って問いかけてきてたんだな」

SD「70年代は、ディランの弾き語りというスタイルや社会への反抗っていうアティテュードといった呪縛との格闘で、そこからの卒業/脱却の時代だったけど、80年代に入ると元春(※6)みたいにディランの思想やスピリット、それにロックンロール性も咀嚼したクールでスマートな新しい個性が出てくるんだよな」

DD「70年代はどっちかっていうとジメッとしてて内省的で、田舎へ放浪するようなイメージがあるんだけど、80年代は積極的に街に飛び出して、リアルなストリートを描写するっていうディランのストリート感覚、都会的な側面を継承した連中が出てきた」

SD「フォーク集会とかでみんなで群れてワイワイやるっていうんじゃなくてな」

DD「陽水経由でディランのボサボサ頭を継承して登場したSION(※7)はフォーク・ギターを持ってたけど、NYでラウンジ・リザーズとレコーディングしたり、非常にクールでオリジナルな表現をしてた」

SD「目の前にある権力と闘うっていう単純な構造じゃなくなってきてたから、もっと〈個〉というものを模索して、パンク以降の感覚で自由を求めるっていう」

DD「そのためには独自の言葉だけじゃなくて、ロックンロールのビートも必要だったわけだ。ブルーハーツのマーシー(※8)やTHE BOOMのMIYA(※9)といった、友部さんやRC(サクセション)経由の孫世代も登場してくる」

SD「いっぽうで2000年前後になると、ディランの歌詞の側面だけじゃなくて、ディラン・サウンド自体の秘密を解析しようとするミュージシャンも出てくるんだよな」

DD「ハナレグミ、高田漣、青柳拓次、おおはた雄一……日本のフォーク/ロック草創期にサウンド面で重要な役割を果たしたはっぴいえんど時代前後の細野さん(※10)仕事から最近の鈴木惣一朗ワークスという、もうひとつの太いディラン・ラインが浮き出てくるわけだ。でも、いま〈日本のボブ・ディラン〉は誰だ?っていえば、存在自体のディラン化が進行しているみうらじゅんしかいないよな」

SD「修行僧のようにずうーっと〈ディランとは何ぞや?〉って自問自答し続けてるっていうところでね」

DD「気ままに自分の好きなことだけを徹底的に追求するからこそ、自由や解放感を得られるってところがまさしくディラン的」

SD「ディランっていうのは、一貫して自由への欲望を掻き立てるもんな」

DD「まさにアイ・シャル・ビー・リリースト。いつだって〈自由になりたい〉という欲望にシンプルに、忠実に生き続けてるのがディランだもんね」

SD「やっぱ、自由だよねえ~」

 解放感に包まれて、素っ裸で夜空の星空を眺めながら自由にディランについて語り合い、ほんの少しだけ自由な気分を味わった2人は、ひんやりとした風に吹かれて風邪をひいたのだった――。(続く)

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