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第13回 ─ 鉄納戸の写真

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2006/11/22   23:00
ソース
『bounce』 281号(2006/10/25)
テキスト
文/青柳 拓次

 台風がやってきて、家の中にねこといる。写真の事でも書こうと茶をいれる。それから、さつまいもをトースターに入れて、ノートをひらく。

〈ことばを記す〉〈曲を書く〉この二つの行為と共に、ずっとやってきたのが写真だった。遠出するときは、ノートと録音機材、そしてカメラは必ず鞄の中に入っていた。

 最初はオリンパス・ペン、それからコニカ・ビッグミニ、キャノン・FT、オリンパス・OM-10、OM-1、コンタックス・G2、ニコンFE、コンタックス・T2、ニコン・F3HP、そしていま、ニコン・F100とプラナーのレンズが一対だけ、手元にある。

 中学生のころ、実家にあったオリンパス・ペンを見つけて、フィルムを入れてみた。家のまわりを撮影して、現像から戻ってきたフィルムをみると、光の跡のようなものだけが写っていた。カメラは壊れていて、がっかりした。だけれども、それからずっと写真は止めていない。撮り続けている自分に、疑問も持った事がない。

 さつまいもが焼けてきた。粗塩をふって食べる。

 いまや白黒用の印画紙とフィルムが、世界からどんどんさよならしている。気に入っていたドイツのアグファも、フィルムから撤退してしまった。

 先週、竹の庭を撮りに、鎌倉の報国寺へ出掛けた。最近みつけたばかりの〈チェコのモノクロフィルム〉を持って。現像からあがってきたベタ焼きは、濃くて湿気を含んだ色合いに感激した。しばらくこれでやってみようと思う。

 今年は、この二人の白黒写真に出会えて本当に嬉しい。

 68年、ジプシーの男と馬をルーマニアで撮影したチェコの写真家ジョセフ・クーデルカ。尾道への旅のあと「何かを感じ取った時に、シャッターを切ります」と語ったドナータ・ベンダース。

 自分にしか見えていないもの、聞こえていないもの、感じていないものに出会えば、〈体は動き出す〉と証明してくれたのだから。

PROFILE

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famousに参加する他、KAMA AINAとしても活動している。12月19日には東京・草月ホールにてLITTLE CREATURESのライヴ〈Overalls People〉が行われる予定。