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第103回 ─ サディスティック・ミカ・バンドをお客様に〈Ho!楽〉新連載がスタート!!

連載
360°
公開
2006/11/02   19:00
更新
2006/11/02   22:10
ソース
『bounce』 281号(2006/10/25)
テキスト
文/桑原 シロー

HO!楽探検 タイムマシーン


 グラマラスでファニーでリッチでゴージャスなロック&ポップ・サウンドを携え、サディスティック・ミカ・バンドはフォーク全盛の音楽シーンに姿を現した。エキゾティックで派手なヴィジュアルにシュールでタイムレスな歌詞世界、〈僕たち異質な存在なんです〉という主張をこれでもかとアピールしまくるファースト・アルバム『SADISTIC MIKA BAND』……そんな彼らの声が、時をひょいと超えた現代でも通用してしまうところがなんともすごいのだが、異質さを構築する基礎が頑丈だからそれが可能なのである。本当に〈ミカ・バンド〉という存在については、いつまでたっても比較対象が見つからない。

 72年に、元ザ・フォーク・クルセダースのトノヴァンこと加藤和彦、元ジャックスの角田ヒロ(現つのだ☆ひろ)、そして加藤の妻であるミカの3人がまず結集するが、ほどなくして角田が脱退。ドラムスに高橋幸宏、ギターに高中正義、そしてベースに小原礼という布陣で本格的にバンドが始動する。彼らのモットーは、みずからの美意識に忠実であること。陽気さを忘れず、快楽原則に基づいたサウンド作りを追求すること。それが実践されたのが先述のファースト・アルバムだ。スタジオにヤシの木を持ち込んで、ハワイのムードを作ってレコーディングした……なんていう逸話も実にミカ・バンド的で、真面目に不真面目にいつも遊び心を弾けさせた彼らであった。そんなバンドに目をつけたのが、ロキシー・ミュージックとの仕事でも知られていたイギリスの名プロデューサー、クリス・トーマス。彼と組んで、74年には日本が世界に誇る名作『黒船』を誕生させる。コンセプト・アルバム的な構成にプログレッシヴ・ロック的演奏、それにトノヴァン作の湿り気を帯びた和風メロディーの登場、と前作とは毛色の異なる内容となったが、この1枚によって非常に音楽性の高いバンドじゃないか、という評価を得ることに。すぐにアメリカ、イギリス(1作目はすでに絶賛されていた)でもリリースされた『黒船』だが、とにかくこれまでの日本のロックにはなかったスケール感を持つ作品であった。そして、ふたたびクリス・トーマスのプロデュースで75年に『HOT! MENU』を発表。さらに同年10月、彼らはロキシー・ミュージックとのライヴ・ツアーのためにイギリスへ旅立つのだった。各地で予想を超える大熱狂を巻き起こした彼らだが、(その観客のなかには若き日のジャパンの面々もいた)、特に新加入した後藤次利のベース・プレイは「Melody Maker」誌などでも大絶賛された。が、11月にはトノヴァンとミカの離婚を機にバンドは解散。以後、メンバー各々が今日までの日本の音楽シーンにおいてどれだけの活躍をしたかは説明するまでもないだろう。

 その後、85年に東京・国立競技場で開催されたイヴェント〈All Together Now〉にて、坂本龍一と松任谷由実も参加した〈サディステック・ユーミン・バンド〉として一夜限りの復活を果たしたミカ・バンドだったが、89年には桐島かれんをヴォーカルに迎えて一時的に再結成し、アルバム発表とライヴを行った。なんかまるで海外のバンドみたい! どっしりとした貫禄を見せつける彼らの姿に、巷ではそんな声が聞かれたものだった。そして、それからまた17年の月日が流れて……。