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第11回 ─ エル・ドミンゴの妄想(後編)

連載
踏 切 次 第
公開
2006/10/19   19:00
更新
2007/11/08   17:29
ソース
『bounce』 280号(2006/9/25)
テキスト
文/次松 大助

特別巨編! 次松大助が描く一大スペクタクル小説(?)

 もう秋ですが〈もみじ狩り〉ってもみじを獲ることではなかったんですね。本当に知らなかった。

 さて、2019年に発売された〈エル・ドミンゴ〉の副作用によって、胸が膨らみ始め、徐々に女性化しつつある彼らは、自らのことを前向きな意味で〈セントラル〉と呼び、薬害訴訟や各地で大規模な人権運動を行いました。中でも、いわゆるゴスロリ・ファッションに身を包んだ過激派の男性たちは、中国各地で武力衝突を繰り返し、実質的な意味でのセントラルの自治区を作り上げていきましたが、同性愛に反対する宗教徒や、テロと混同して鎮圧しようとする国連を巻き込んで、問題はどんどん大袈裟な方向へ深刻化していきました。

 しかし、内戦が泥沼化する最中、過激派のセントラルが中国国家主席を拉致するという事件が起こり、一国家のトップが拉致されたという前代未聞の大事件に世界中が注目する中、その犯行声明は衛星を通じて世界に同時中継されました。主だった要望は、〈エル・ドミンゴ〉の薬害訴訟を取り下げる代わりに、一部のセントラルの自治区の完全な独立を求める、ということと、独立後の〈エル・ドミンゴ〉の製造権と販売権を譲渡して欲しい、ということでした。この無茶な要求は、一人の天才子役によって世界中に歓迎されます。過激派のリーダーの息子であるこの12歳の少年は、天使のような笑顔(神木君的な)と、無垢な涙をもって、僕たちはテロリストではなく薬品被害者なのだ、という立場を説明し、次に巧みな話術で独立問題を世界平和の問題へとすり替えていきます。拉致した国家主席の縄を解き、持っていたナイフを手渡した少年は、「報復の連鎖をここで断ち切りましょう。僕を刺したその後で家に帰って、愛する家族の、どんな笑顔を守りたかったのか、もう一度考えて下さい」という内容の演説をします。猿芝居と知りつつ、主席はうかつにも涙を流し、翌日にはアメリカの歌手、マイケル氏が「彼らが独立できない限り今後一切の音楽活動を中止する」と発表しました。

 ――圧倒的な世論の支持を受けて、2026年、国連は彼らの自治区の一部を独立国家に認定しました。新しい国は〈エル・ドミンゴ(日曜日の意)〉と名付けられ、第2のラスベガス、第2のモナコと親しまれましたが、過度の少子化による年金問題の為、40年後、エル・ドミンゴはあえなく崩壊……というお話でした。

今月のBGM

The Miceteeth
『CONSTANT MUSIC 2』

tentosen/サブスタンス
“EL DOMINGO”も収録しているニュー・アルバム『CONSTANT MUSIC 2』です。あ、あとモンパチのニュー・アルバムもめちゃくちゃ格好良かったです。どちらも是非。なんつって。

PROFILE

次松大助
99年に大阪で結成されたオリジナル・スカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。先頃リリースされた新作『CONSTANT MUSIC 2』では新境地を開拓し、話題沸騰中! なお、9月23日からは同作を引っ提げた全国ツアーがスタート。詳細は〈www.miceteeth.net〉まで!