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第1回 ─ マイティ・スパロウ

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DISCOVER WORLD
公開
2006/10/05   19:00
更新
2006/10/05   19:57
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文/編集部

世界中のオモシロ音楽をご紹介する新連載がスタート! 今回登場するのは、トリニダード・トバゴの国民的エンターテイナーにして〈キング・オブ・カリプソ〉!!

 W杯でのサッカー代表の活躍で、ここ日本でも広く知られるようになったトリニダード・トバゴ。このカリブの小国を代表するスーパースターがマイティ・スパロウです。デビューは56年、ウィットに富んだ歌詞とサーヴィス精神旺盛なエンターテイナーぶりで人気を集めると、70年代半ばにはヴァン・ダイク・パークスと交流を深めて『Hot And Sweet』などの傑作を残しています。また、〈カリプソの王様〉として知られる一方、カリプソがファンクやディスコの要素を呑み込んで進化したソカにも積極的に取り組んで多くの名曲・名作を発表。そんな彼が、89年以来の来日公演を決行! 今回スパロウに同行し、自身もSTEEL LOVE WORLD WIDEのプロデューサーとして活躍するYOH WATANABEが見た〈マイティ・スパロウの魅力〉とは? そこから楽しくて下世話、そして最高に粋なスパロウの姿が見えてくるはずです。

不世出のエンターテイナー、スパロウ


〈2人の白人美人さん、コンゴのジャングルに行きました/首苅り族に捕まって、酋長ウンパガが言いました/今まで白い肉食べたことない/フッフッフッ〉(“Congo Man”)。

 マイティ・スパロウの歌のなかには、たくさんのエロいジョークが満載されている。そしてそれを聴いた途端、カリビアン・ピープルはものすごく明るく元気になる。

 これがジョークの最新作だ――〈タイガー・ウッズに会った時、スパロウ、あなたの歌は素敵だけど、金はあんまりないみたいだね、僕がお金の作り方を教えてあげるよ、そう言った。そりゃ助かるなあ、俺には孫がたくさんいすぎて大変なんだ。そこでわしはゴルフ場までついていったのさ、そしてすぐにわかった。タイガー、気持ちは嬉しいけれど、これは俺のスポーツじゃない。だいたいなんでこのわしが白い小さなボールと遊ばなきゃいけないんじゃ。それでもタイガーは俺にレッスン・プロを紹介してくれたよ。へんなオカマみたいな歩き方でやってきて、スティックの握り方を教えるって言うんだ。俺のモノに触ったら殺すぞ、思わず言ったね。そしてプロいわく、ゴルフとは、スティックで玉を穴に入れる遊びだというのさ。入れるのは玉じゃなくてスティックじゃないのか。わけわからんなあ、そして最後にフィニッシュを決めるスティックはパター。パターってなんだ、いちばん細くて小さいスティックさ〉。

 僕とスパロウのバック・ミュージシャンはホテル・オークラの床を叩いて笑い転げた。だが、ブルーノートでこのジョークを披露した際には、針を落としても聞こえるような静寂がやってきた。最初のステージのあと、マネージャーのアレックスが言った。これでいいの? しかし、スパロウは最終日まで毎回このネタをぶちかました。きっとシーンと静まり返るというリアクションが新鮮だったのだろう。そんな炸裂するオヤジ・ギャグのなかに、不世出のエンターテイナーとしての姿があった。この人は誰かを喜ばさずにはいられない人なのです。インタヴューの時も、機嫌がいい時は必ず歌が始まる。70歳を過ぎ、糖尿病で足も悪くなってきている。それでも腰は動いている。

 17年前、NYで初めてスパロウを観た。ソカ・クルーズという名前がついたボートでマンハッタンをグルグルしながら聴いたスパロウの歌にやられて、次の年にはトリニダードのカーニヴァルに向かっていた。そして観るたびに彼の凄さを知ることになる。どのショウでもパーティーでも、その会場でいちばん美しい女性が目をキラキラの星にしてスパロウを最前列で見つめているのだった。ブルーノートではそんな女性を見かけなかったが、ブルックリンのカーニヴァルに登場したスパロウの隣にいた人を見た途端、気絶しそうになった。

 スパロウはまだまだ元気です。そしてずっとこのまま歌ってほしいと思っているのです。