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第6回 ─ 天色の島

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2006/04/20   01:00
更新
2006/04/20   18:10
ソース
『bounce』 274号(2006/3/25)
テキスト
文/青柳 拓次

 草むらへ。

 星空の下、バンから皆が降りてゆく。片手にレコーダーを持って。わたしはドアを開け、車内でじっくり耳をすます。その昼、ウミガメを追いかけて小波に呑まれ、磯で怪我をしてしまったから。

 ハワイ島のカエル大合唱を浴びる。

 暫し静かにしていると、近くのカエルがリードをとりはじめる。アナログシンセより円やかな、なんという音波か。そこのきみ、顔をみせておくれ。

 15年程前、初めてのハワイでハナウマ湾を訪れた。都会からやって来た自分には、その広大な景色があまりにも非現実的で、書き割りに見えた。「こんな場所が世界にあるなんて……」。心が何度も呟いた。二度目のハワイでは、マッド・プロフェッサーのライヴをホノルルで見た。オアフに暮らす各人種が見事にブレンドされた会場。人々がダブに揺れながらハーブを廻している。バトンのように黒い手から白い手へ、それから黄色の手が伸びて再び黒い手へ。「こんな場所が世界にあるなんて……」。再び呟いた。

 それからのわたしは、世界の幾つかの島を巡りながら、徐々に自分と音楽を〈移動し浮いては沈む小島のようだ〉と捉えるようになってゆく。ついには、自分のソロ・プロジェクトでハワイ語のKama Aina(島の人、土地の人)という名前を自ら襲名することになる。

 ハワイ産、藍色の声をご紹介させて頂きたい。62年に発表されたサンズ・オブ・ハワイ・Music Of Old Hawaii・。その一曲目のヴォーカル担当が、藍色の声を持つ男、エディ・カマエだ。チェット・ベイカーやジョアン・ジルベルトのようなささやく唄法を用いながら、美しき個性の輝きを湛えた声。その低いつぶやきは、窓枠の隙間から洩れる、静かなる真夜中の風。

 昨日、ハワイ島から戻って来て、ある事を思い出す。

 いつだったか、初めて占い師の前に座った時のこと。いくつか見て貰ったうち、この一つだけが当たっていた。

「地球の緯度を見て、あなたの縁のある土地が分かるんです」「この緯度を辿ってゆくと、ハワイが入りますね」

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界各地で制作を続けるアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURES、Double Famousの一員として活躍する他、Kama Ainaとしても活動中。5月にはKama Ainaの新作、6月には伊藤ゴロー、高田蓮、民とのコラボレーション・アルバムを発表。