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第6回 ─ 傘を買おう

連載
踏 切 次 第
公開
2006/04/20   00:00
更新
2006/04/20   18:09
ソース
『bounce』 274号(2006/3/25)
テキスト
文/次松 大助

次松大助が見つめる、とある町の日常─

 カラスが何かを思い出したように一言、〈アァ〉と鳴いて、街に春がやって来ました。万歳。近所の金持ちの庭には白やピンクの梅の花が咲き、とても綺麗です。嬉しくなって散歩がてら立ち寄った公園でブランコに乗り、上を向いて漕いでいると垂れ下がった桜の枝に見え隠れする三月の昼下がりの淡い三日月。もう少し見える高さまで漕いでみようと頑張ってみると、なるほどそこまで若くもないかと胃が昨日のお酒を面白がるので気持ち悪くなって家に帰りました。

 そこで報告です。近頃コンビニエンス・ストアで発売され出した、桃の100%ジュースがワイルドターキーと素晴らしい相性で、〈おいしいなぁ、おいしいなぁ〉と毎晩遅くまで飲んでいるうちに、レコーディング期間中という名目でバンドから支給して頂いていたスタジオまでの定期券代をあろうことか、というか案の定お酒代に替えてしまった次第です。街に出るのに往復千円以上するところに住んでいるので、必然とどこへも出掛けなくなり、そうするとまた家でお酒ばかり飲むことになります。とても、気持ちいいです。

 さて、ヴァレンタイン・デイがチョコレート会社の企画によって今の形になったとするならば、僕は傘の会社によって〈傘を贈り合う日〉というものを企画して欲しいです。ほとんどの雨の日が大嫌いな僕は、ただでさえ一面灰色の景色が、退屈なビニール傘で埋まるのを見るとすごく憂うつな気持ちになります。もっと色とりどりの傘で雨の日が見た目に楽しくなればいいのに、と時々考えます。それぞれに自分のすごく好きな傘を持っていれば、客足が遠のく雨の日も、少しは人が増え、経済効果的にもばっちりです。しかし、かく言う僕もビニール傘しか持っていないうえに、何処に行けば傘が売っているのかすら知りませんが。

 そういう訳で、すべては僕の妄想でしたが、春のネムリ粉にやられながら、お酒を飲んで、うつらうつらそんなことを考えていると、〈一雨降る〉というのもまぁ悪くはないよなぁ、と二十六年目にして初めて少しだけ雨を好きになれた気がしました。

次松大助
99年に大阪で結成されたオリジナル・スカ・バンド、The Miceteethのヴォーカリスト。箱という名義でソロ・ライヴを行う他、現在は4枚目となるニュー・アルバムの制作を進行中。最新インフォメーションはオフィシャル・サイト〈www.miceteeth.net〉にてチェックを!!

今月のBGM

GLENN GOULD『...And Serenity』
Sony
前にグレン・グールドのDVDを借りて見たのですが、日本語字幕がなく、何を喋っているのか全然わかりませんでした。ぜひ日本語字幕付きのものを出して欲しいです。春のふとした瞬間に、これ以上ないほど沿う一枚です。