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第2回 ─ ACID FOLK

連載
Di(s)ctionary
公開
2006/03/30   20:00
ソース
『bounce』 274号(2006/3/25)
テキスト
文/北爪 啓之

さまざまな音楽ジャンルを丁寧に教えてくれる誌上講座が開講! 皆さん、急いでご着席ください!!

Ⅰアシッド・フォークの成り立ちと特徴

 60年代後半~70年代半ばまでの〈サイケデリック感覚を内包した異端のフォーク〉──いささか強引ではあるが、本講義では実に曖昧で掴みどころのないアシッド・フォークというカテゴリーをこのように定義付けることで話を進めていきたい。

 さて、プロテスト・ソングに端を発した60年代のアメリカのフォーク・シーンは、次第に私的かつ内省的に深化していったのだが、その過程でサイケの洗礼を受けたフォーク・シンガーも少なからず存在した。そもそもLSD服用による知覚拡大の助長手段として生まれたサイケデリック・ロックの目的は〈精神の異化〉にあったが、ティム・バックリーやトム・ラップはそれをフォークという手法によって実践し、極めてドラッギーで浮遊感に満ちた独自の音空間を創出していた。逆にロック側からもより内向的なアプローチを試みることによってアシッド・フォーク化したデヴィッド・クロスビーらがいることも忘れてはならない。同時期のイギリスでもドノヴァンやティラノサウルス・レックスなど、サイケなヒッピー思想を英国的に解釈したマジカルなフォーク・サウンドを奏でる連中が登場している。ちなみに、ドラッギーな演奏やギミックに溢れた楽曲だけがアシッド・フォークの特徴というわけではない。簡素な演奏で紡がれるヴァシュティ・バニアンやニック・ドレイクの儚い歌声はヘタなギミック以上に幻惑的で、聴き手を非日常へと導くのに十分である。以上のようなアシッド・フォーク的、すなわち精神異化的な感覚を持ったシンガーはなにも英米だけに限らず世界各地に(南米や韓国にも)存在していたのだが、当然日本も例外ではない。ドラッグが一般的ではなかった我が国において、彼らが当時どのような受け止め方をされていたのかを考えてみるのもまた興味深い。

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