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第5回 ─ 青の言葉

連載
Mood Indigo──青柳拓次が紡ぐ言葉、そして……
公開
2006/03/23   18:00
更新
2006/03/23   18:11
ソース
『bounce』 273号(2006/2/25)
テキスト
文/青柳 拓次

 世界から受け取った言葉がありきたりだった時、おもう。言葉が紙粘土のようなものであるなら、使い古された言葉を丁寧に水をかけて柔らかくし、歪んでしまった形をシンプルに整え、ふたたび固まる前に誰かへ渡せたらと。
  
 三月にBook wormが8周年を迎える。そこでは、言葉と音を拾うことの大好きな人たちが集まり、口々に出会った言葉を紹介する。詩、評論、記事、エッセイ、歌詞……聞き手は、読み手のこころが動いた言葉を、瑞々しく素朴な生の声で聞く。濃密な体温を受けながら。
 
 あるとき……

奄美から自転車で東京に出てきた少年が郷里の子守唄を唄う。ボスニア・ヘルツェゴビナの女性が紛争の話を聞かせてくれる。いつも福岡からヒッチハイクでやってくる青年が右翼の街宣車に乗せてもらった時の話をする。韓国人の女の子がルームメイトの通訳を付けながらシュールな花の詩を読む。
 
 あの8年前の初日から、Book wormは電波もケーブルも介さない〈一部屋のメディア〉でありつづけている。

「モモ」の著者ミヒャエル・エンデが言う。人は自分の好きな対象について語る時、聞き手を魅了する事ができる、と/音楽を楽しむなら、自分の部屋、友達の家、車の中、ライヴやクラブ……場所は豊富にある。言葉の場所はどうだろう?/誰でも、好きな歌詞や作家のことば、エッセイ、子供の頃に読んだ絵本、忘れられない記事などを、誰に伝えるでもなく心に持ち歩く。

 そんな話を友人達と交わしながら、Book wormというフリースタイルの朗読イヴェントが形作られていったのを思い出す。

 あなたは音楽をやっていなかったら、極悪人になっていたわね。数年前、初めてわたしのライヴを見た女性が言い放った。心が大きくブレた。何年も前の言葉なのに、ずっと忘れられない。未だに小さく振動しつづける、わたしの心臓。

青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界各地で制作を続けるアート・アクティヴィスト。現在はソロ・プロジェクトであるKAMA AINAの新作を制作中。3月26日には文中で触れられている言葉のイヴェント〈Book worm〉に参加する予定。詳細は〈www.bookwormweb.net/〉にてチェックを